98話 エバはファザコン。
98話 エバはファザコン。
「価値観の違いだな! ワシからすれば、お前はただのヒョロガリだ! 見ろ、この美しいボディを! これこそが、本物にして究極の美貌よ! がはははは!」
そういいながら、彼女の前で、ダブルバイセップスを決めるカンツ。
もとからパツパツの上腕二頭筋が、さらに美しく隆起する。
「いいから、さっさとベンチに帰れ」
シッシッと、追い払うような仕草をとるクウリュート。
カンツは、間違いなく、史上最高クラスのスペックを誇る天才超人なのだが、
しかし、見た目ゴリラで、性格が暴走機関車であるため、
『一部の特殊な趣味を持った方々』以外からは、
あまり、『男性として好まれる』ということは少ない。
『死線においてはブッチギリで頼りになる』のは絶対にゆるぎない事実なのだが、
『日常生活で隣にいられるとウザすぎる』というのも絶対的な事実。
★
カンツがチームに加わってから、
点差はどんどん埋まってきた。
この回だけで、8点を獲得し、
点差はかなり縮まった。
野球は9人でやるスポーツだが、
しかし、『主軸』は一人で担える。
攻撃の分野だと、『まともな戦力』が『出来るだけ多くいた方がいい』のが事実だが、
しかし、守備の分野では『破格のピッチャーが一人いるだけ』でも、
十分に、強敵と渡り合うことができる。
「がははははは!」
マウンドに上がったカンツは、
バカみたいに笑いながら、
アホみたいな剛球を、
テンポよく、リズムよく、
ポンポン、ポンポン、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……
「ぐぅっ!」
持ち前の反射神経をフルで総動員させて、どうにかバットにあてた1番打者のエバだったが、しかし、ボールはまったく飛んでいかない。
「いったぁ……鉄の球でも投げてんの?」
ビリビリと痺れている両手を見つめながら、ボソっとそうつぶやいたエバに、
カンツは、
「がははははは! どうだ、エバ! ワシはすごいだろう! しかし、惚れてはいかんぞ! ワシはみんなのカンツさんであり、特定の誰かさんのものになったりはしてやれん! すまんな!」
「……きっしょ。あんたがすごいのは事実だけど、男としての魅力はゼロ」
「いや、男としての魅力であふれているだろう! 撤回を要求する! ワシ以上の男など、そうそうおらんぞ!」
「パパと比べれば、あんたなんかゴミ」
重度のファザコンであるエバにとって、
『パパ』以外の生命体は、男も女も動物も関係なく、
とにかく、すべて、ゴミでしかない。
パパ以外は、何もかも、すべて、等しく、価値がない存在。
パパだけが彼女の中にある概念の全て。
パパと生き、パパと死ぬ。
それだけが彼女の人生であり、それ以外の過程や結末には、何の意味もない。
ただひたすらに、永遠に、愛するパパと共にあること。
それ以外には、本当に、ひとかけら分の意味すらない。
それが、彼女、エバ・マイマイン・ツンデレラの基本スタイル。
ちなみに、彼女のパパは、彼女に『ツンデレラ』という名前をつけるような愚者で変態なのだが、しかし、それでも、エバは、パパを盲目に愛する。




