95話 がはははははは!
95話 がはははははは!
「……離れん……なんだ、この力……」
「すごいな、この女。俺、まったく手加減していないんだが、全然ピクリともしないんだが……」
異常体力組の中でも、特に腕力が強い方である二人の屈強な男の妨害をもろともせず、カキマロは、イカれた目で、冷静に、黙々と、ダリィを殺そうとしている。
この状況になってくると、流石に男のプライドを保てなくなったダリィが、
「ちょっ、分かった、わかった、ごめん、ごめん、ごめん! 神様、すごいから! もう二度と、侮辱しないから! わかったから! 勘弁してくれ、カキマロ!」
と、謝罪をするも、しかし、カキマロは、
「神にあだなす者は、死あるのみ」
と、聞く耳なしで、なすすべがない。
――と、そこに、
「がははは! クマートゥとスカーの二人がかりでも相手にならんとは、貴様の信仰はハンパじゃないな、カキマロ!」
豪快に笑いながら登場した筋肉ダルマが、
「しかし、ダリィが死ぬのはまずいからな! 流石に落ち着け、カキマロ! がはははは!」
そう言いながら、
ダリィの顔面を掴んでいるカキマロの腕――その手首を、カンツは、そこそこ強めに、ギュっと握りしめる。
「ぎぃっ!」
ありえない激痛に顔をゆがませるカキマロ。
さすがに、ダリィの顔面を掴み続けることは叶わず、
ほとんど反射のレベルで腕を引いて、カンツをにらみつける。
「がはははは! すごい目だな! いい殺気だ! いいぞ、カキマロ! 信念に従い燃える様は美しい! しかし、このワシと殺し合う気なら、流石に、それはやめておいた方がいいと助言させてもらおう! 別に『ワシ殺し』に挑戦してもかまわんが、とんでもない苦労をすることになるぞ? それでもやるか? んー?」
「…………ちっ……」
カキマロは、心底鬱陶しそうに舌打ちをすると、
ダリィをにらみつけて、
「次、少しでも神を侮蔑したら、今度は容赦なく殺す。邪魔するヤツがいないところで、確実に殺す。マロの信仰をナメない方がいい」
そう言い捨てると、ベンチに戻って腰を落ち着ける。
完全にラリった狂信者カキマロも、流石に、カンツが相手ではおとなしくならざるをえない。
特待生の中でも、カンツの『異常体力』は抜きんでている。
先ほど、スカーとクマートゥの二人がかりでも、リミッター解除カキマロを引きはがすことはできなかったが、そんなリミッター解除カキマロを含む、特待生全員で挑んでも、カンツを『抑えつけること』はできない。
ヒリヒリする顔面を抑えながら、
ダリィが、
「助かったよ、カンツ。マジで死ぬところだった」
「がははは! カキマロの前で神を侮辱するとは、貴様も愚かがすぎるぞ、ダリィ!」
「いや、別に侮蔑とかはしてねぇんだけど……ハイタッチすら禁止とか、ありえねぇだろって、当たり前の認識を促しただけで……」
「狂信者相手に常識など通じん! ゆるぎない信念を持つ者は、他人の言葉に耳を傾けたりはしない!」
「……まあ、お前もそうだしな……神どうこうは別としても、ゆるぎない信念を持つと言う点においては、ほぼ同等……」
正義の化身であるカンツに常識は通じない。
カキマロは、神を侮辱された時にだけリミッター解除モードになるが、
カンツは、常時、リミッター解除状態。
よほどのイカれたハンマーセッションを通さない限り、
カンツに『新しい認識』を植え付けることは叶わない。




