93話 うまれてすみません。
93話 うまれてすみません。
「マロの前で、神を侮蔑するな。それは自殺と同義である」
「……今、まさに、神以外が、お前の肉体に接触しているけど、それはいいのか?」
ギリギリィィと、顔面を締め付けられて、普通に激痛が走っているが、しかし、プライドの高いダリィは、決して、痛いなどとは口にせず、彼女の腕を振り払おうこともせず、ど真ん中の軽口であざけっていく。
そのムーブに怒りを感じたカキマロは、
より、アイアンクローに魂を込めた。
ギリギリと軋む音が響く。
そのヤバそうな雰囲気を尻目に、
堅実に外野を守ってきた佐藤ツカムくんが、
『ゆっくりとベンチに帰ってきたビアラ』に、
「ちょっ、あの二人、止めた方がよくないですか? 僕らじゃ無理そうだから、特待生かつ女子であるあなたに仲裁を頼みたいのですが?」
と、声をかけると、
ビアラは、ビクっと体を震わせてから、
「フヒッ」
と、一度、絶妙に気持ち悪い、歪んだ笑顔で笑ってから、
「……ぅ、産まれてサーセン」
と、なぜか、謝ってくる。
そのムーブに対し、佐藤くんは、
「え、なぜ、急に謝罪を……」
と、困惑している彼に、
ベンチに座っているスカーが、
「気にしないでいい。たんなる彼女の口癖だ。ビアラは、おそろしく優秀で、非常にハイスペックなスーパーガールなのだが、しかし、なぜか、病的に卑屈で、とんでもなく自己評価が低いんだ」
「……フヒ、フヒヒ……」
普通に笑えば、普通に超絶可愛らしいはずなのに、
歪んだ笑顔を浮かべるものだから、
どうしても、気持ち悪く見えてしまう。
コミュニケーション能力に重大な問題がある、ちゃんとした陰キャ。
謙遜しているのではなく、ガチでネガティブが過ぎる残念美少女。
それが、彼女、ビアラ・モスト・Ⅾ・アークホーン。
「せ、拙者では……なにも……出来ないから……基本、何もできないから……フヒッ……ごめんなさい……なんも出来なくてごめんなさい……フヒヒ……ヒヒ……」
と、無駄に謝りながら、変に笑いながら、その上で、ポロポロと泣き始める、
という、完璧な情緒不安定。
それが、彼女のデフォルトであるというのだから驚きである。
その様子を尻目に、スカーが、タメ息交じりに、
「彼女のことは、出来るだけソっとしておいてくれるとありがたい。この通り、非常に不安定な子なので、知らない人に下手に話しかけられたりすると、涙が止まらなくなって、非常に厄介なんだ」
「……め、めんどくさい方ですねぇ……」
ビアラの陰キャぶりに、佐藤が引いている間も、
カキマロは、ダリィの頭部を握りつぶそうと頑張っていた。
カキマロの見た目は、だいぶ華奢な女の子なのだが、
しかし、その見た目とは裏腹に、豪快な握力で、
ダリィの『比較的小柄な頭』を締め付けていく。
プライドを軸に、どうにか、平静を保っていたダリィだったが、
しかし、頭蓋骨の軋む音がシャレにならなくなってきたところで、
流石に、ダリィも、額に冷や汗をにじませて、
「ぉ、おい、カキマロ。いい加減にしとけよ……これ、俺、もう少ししたら死ぬぞ。いいのか、俺が死んでも。色々な意味で大変なことになるぞ……ちょっ、いや、マジで――」
「マロの前で神を侮蔑したカスを許すことはできない。死ね……死ね……」
「やばい、こいつ、目がマジだ! 脅しをかけてきているんじゃなく、ガチで殺しにかかっている! マジか!」




