88話 ぴよぴよ。
88話 ぴよぴよ。
「仮に、それが事実だとしたら、見当違いのところで、7回も振っていたってことになるから、一回空振りするだけよりも、むしろ、7倍マヌケ度が上がってしまうんだが、その点についての、お前なりの見解を、ぜひ聞かせてもらいたい」
などと、じゃれあっているセンとカミノに、
ダリィが、
「おい、そこの、クソの役にも立たなかったバカ2匹。さっさと守備につけ」
その言葉にムっとしたセンが、
「なんていう言い草だ。自分の性能がちょっと高いと思って驕っていやがる。俺がその気になったら、てめぇなんざワンパンだということが分かっていないらしい。無様な話だ」
続けて紙野も、
ダリィに指をさしながら、
「打席で一度もバットを振っていない、という点においては、お前と俺で、何一つ違いはないというのに。むしろ、俺は、三回、お前は四回で、回数で言えば、お前の方が上だ。つまり、客観的視点で見た場合、お前の方が俺よりもマヌケだったと、言わざるをえない! はい、論破! というわけで、土下座・土下座・土下座!」
紙野の暴論を受けて、センがキラキラした顔で、
「言葉の意味はよくわからんが、とにかく、すごい詭弁だ! こんなにも頭の悪い『俺理論』を聞いたのは産まれてはじめてかもしれない! 俺は、今、伝説を目の当たりにしている!」
などと、アホを連打してくる二人に対し、
ダリィは、泣きそうな顔になって、
「まともなチームメイトが欲しい……」
と、心からの嘆きを口にした。
★
二回の表は、サードの紙野のエラーもあって、3失点。
これで、5失点となり、センチームの勝利は絶望的となった。
ダリィたち特待生と逃げずに勝負してくれるのであれば、まだ、可能性はあるのだが、
しかし、特待生女子チームは、敬遠策で、こちらの特待生を完全封殺するつもりでいる。
野球というゲームのルールを鑑みるに、この状況で勝つのは、ほぼ不可能と言っていい。
「いいか、田中・佐藤・鈴木! どうにかして、塁に出るんだ!」
下位打線の彼らにゲキを飛ばすダリィ。
これだけの劣勢に立っていながら、しかし、ダリィは、一ミリも諦めてはいなかった。
「フォアボールでもデッドボールでもなんでもいい。とにかく塁をうめてくれ。そうすれば、俺たちがどうにかお前らを返す! まだ、たかが5点差だ! どうにかなる! どうにか、出塁しろ!」
その叫びに対し、
二回のトップバッターである7番打者の田中シャインピースが、
「無理やてぇ」
と、普通の事を言って、
そして、普通に三振をして帰ってきた。
続く佐藤も鈴木も、当然のように三振をして帰ってきた。
「お前らぁああああ! やる気あんのかぁあああ!」
と、憤慨するダリィに、
佐藤が、
「いやいや、エバさんの剛球や七色の変化球は、一般人にどうにか出来るものじゃありませんから」
続けて、中性的な見た目をしている男子高校生『鈴木ホウマ』が、
「ぴよぴよ」
「そうですよね。ホウマさんのいう通りです。ぼくらは頑張った方ですよ。ホウマさんにいたっては、一度、カスってファールになっていますし」
「ぴよぴよ」
「ですよねぇ」
そこで、ダリィが渋い顔で、
「え、ちょっと待って。そいつの、『ぴよぴよ』ってなに? どういうこと?」




