87話 クソの役にも立たない。
87話 クソの役にも立たない。
「あなたと勝負するメリットがなさすぎる。ちなみに敬遠するのはあなただけじゃない。5番のスカーも敬遠して満塁策をとる。それが最善。勝利を求めるなら、絶対の一手。特待生が4人しかいないのであれば、3人までは歩かせてもいい。2点のアドバンテージがある状況だから、ランナーがいない状態なら勝負するけど、ランナーが出てしまった以上、もう勝負はしない。失点する確率を出来る限り下げるために行動するのが、捕手兼監督である私の仕事」
「……ぐぬぬぅぅ……」
本気で頑張っている人間に、ガチの正論を並べられたら、流石に、手も足も出ない。
こういう時に、感情論を叫ぶほど、ダリィはバカ野郎ではない。
この辺が、本物のヤンキーとは違うところ。
道理の前では無力になるのがダリィの本質。
「ボール、フォアッ」
しっかりと大きく外されてしまったので、流石にどうすることもできず、結局、歩くことしか出来なかったダリィ。
5番打者のスカーも同じように歩かされて、
満塁という大チャンスにはなったものの、
しかし、6番打者は、紙野ボーレさん。
「待たせたな」
と、威風堂々、イケメンな顔つきで、打席に入る紙野さん。
「――『この俺が打席に立った時に塁が埋まっている』というのが、どういうことなのか、教えてやろう。……こういうことだ」
と宣言しながら、センさんと同じく、予告ホームランのポーズをとる。
「予知しよう。キミたちは、踊り狂って死ぬ」
そんな紙野に、ベンチのセンが、手でメガホンを作って、
「きゃー、カミノさーん」
と、黄色い声援を送る。
「――紙野ボーレのただならぬ気配を感じて、彼女たち特待生チームの表情に陰りが出てきた。自分たちは、決して目覚めさせてはいけない獅子を覚醒させてしまったのではないか。虎の尾を踏んでしまったのではないか。そんな不安が、彼女たちの心を包み込む」
「あ、あれは! 紙野さんの必殺技、『セルフ地の文』だ! あれが出たら、終わりだ! 相手は死ぬ!」
目覚めた紙野さんは格が違った。
「トライィ」
何が違ったか。
「トライィ」
そんなことは言うまでもない。
「トラィ、バッアゥ、チェンジッ!」
全球、見逃し!
バットすら振らないという規格外!
「紙一重だったか」
などとほざきながらベンチに戻ってきた紙野さんに、
センは、
「そのテンプレは、せめて、バットを振ってから言おうぜ」
「なんだ、セン、見えなかったのか? ああ、そうか。俺のソニックスイングははやすぎるから、一般人のお前では見えなくて当たり前か。実のところ、俺は、エバのストレートがミットに届くまでの間に、8回ほどスイングをしていたんだが」
「仮に、それが事実だとしたら、見当違いのところで、8回も振っていたってことになるから、一回空振りするだけよりも、むしろ、8倍マヌケ度が上がってしまうんだが、その点についての、お前なりの見解を、ぜひ聞かせてもらいたい」
などと、じゃれあっている二人に、
ダリィが、
「おい、そこの、クソの役にも立たなかったバカ2匹。さっさと守備につけ」




