84話 実況、スーパーパワフル体育野球。
84話 実況、スーパーパワフル体育野球。
マウンドに上がったダリィは、小柄な体をフルで躍動させる豪快なトルネード投法で、爆速なストレートをクマートゥのミットにぶち込んでいく。
時速にして155キロオーバー。
その様子を、ファーストで見ているセンは、呆れながら、
「お前ら、マジでなんなんだよ……」
ボソっと、そうつぶやく。
『体格』というものは、速度に直結する。
150キロオーバーの剛速球を投げるためには、
最低でも、身長170センチ以上は必要だというデータがある。
ダリィは150センチであり、男子高校生としてはかなり小さい方。
医学的に『低身長であると結論づけられている数値』よりもさらに小さい。
本来、その身長の者が出せる球速は、頑張っても精々、120キロ。
というか、120キロ出せたら拍手もの。
それなのに、
ダリィは、
「どりゃあぁあああっ!」
ストレートでは、全球で、150キロオーバーを記録していた。
常識を殺していくスタイル。
それが、特待生たちの必然。
★
投球練習が終わり、試合が始まった。
トップバッターのエバが打席に立つ。
彼女は、間違いなく『細身の女子』なのだが、しかし、放たれているオーラは、バケモノ級のスーパースラッガー。
その雰囲気に対し、ダリィは、
「ふん……威圧感は大したもんだがなぁ……そんなもん、俺が怯まなきゃ、無意味なんだよぉおお!」
鋼の気合いを叫びながら、
ダリィは、豪快なフォームで一球入魂。
爆裂な豪速球。
普通の高校生ならバットを放り捨てて逃げる事しか出来ないだろう。
そんな豪快なストレートを、
エバは、当たり前のように、
カッキィイイインッ!
と、心地のよい金属音を響かせる。
真芯でとらえられた球はぐんぐんと伸びていったが、
少しだけ、タイミングがはやかったようで、
結果的には大ファールで終わった。
打球の行方を確認したエバは、
「ちっ……はやすぎた……」
舌打ち交じりに、反省しながら、
その場で素振りをする。
ビシュっと、バットで空気を切り裂く音を耳にしたダリィは、
額に汗を浮かばせて、
「く、くそったれがぁ……」
ギリギリと、奥歯をかみしめる。
その様子をファーストから見ていたセンは、
「ピッチャー、ビビってる?」
「ビビるわけねぇだろぉ! 俺をビビらせたら、大したもんだ!」
と、大声で叫んでから、
「心のどこかで、俺は、まだ、あいつらをナメていたらしい。だが、そのサービスタイムは終了だ! ここからは、俺の全力を魅せつける! これがぁあ! 俺のぉ!! 魂のぉおおおおおお!」
カッキィイイインッ!
「どわぁあ! いっ、行ったぞ、センっっ!」
鋭い打球。
角度は低い。
方角は、ファースト方向。
ギリギリのところで、センは、反射でグラブを出した。
しかし、キャッチすることはできなかった。
あまりの打球の勢いにおされ、グラブが手から弾かれる始末。
てんてんとライトに転がって、ゆうゆうヒット。
その状況に対し、ダリィは、
「セェエエエン! お前、やる気、あんのかぁあ! ただのド正面ライナーだろうがぁああ! あんなもん、寝ててもとれるだろうがぁああ!」
「見せてくれよ、ダリィさんよぉ。寝ながら、さっきの弾丸ライナーをキャッチするところ。出来るもんなら、ぜひ、見せてくれや。この上ない喝采と賛美を送ってやるから」




