81話 特待生も一般人もバカばっかりのチーム。
81話 特待生も一般人もバカばっかりのチーム。
「ナメてんのか、てめぇええ!」
と、ゴリゴリのキレ顔で、そう叫ぶ。ダリィは小柄だが、腕力はハンパじゃない。
殴り合いの実力は、特待生の中でもピカイチというアタッカー。そんな彼に、胸倉を掴まれていながら、しかし、センは、1ミクロンたりともビビりのない目で、
「これが、お前の言う『勝つための最善』か?」
「あぁあ?」
「この試合限定の話だが、俺は、お前のチームメイトだ。いやでも『戦力の一つとして使わなければいけない』という絶対的な前提条件がある。その俺の胸倉を掴んで殴って殺すのが、お前の最善か? と聞いているんだ」
「近距離で、かつ、逃がさずに対話するために、とっ捕まえているだけで、殺す気なんざ、1ミリもねぇわ、ボケがぁああ! 人をなんだと思ってんだ、かす、ごらぁ!」
「殺す気はない? じゃあ、俺みたいな『運動偏差値48のやつは使えないから、サクっと殺して、別の運動能力が高いやつを補充してチームの総戦力を上げる』――という作戦ではないということか?」
「そんなわけ、あってたまるかぁ!! てめぇ、ほんと、俺のことをなんだと思ってんだぁああ! お前を殺して他のヤツを補充って、それを実行したら、『隕石が落ちてくる』の法則と同じで、普通に没収試合だろうがぁあ! 特待生も、一般人も、バカばっかりか、このチームぅ!」
「じゃあ、お前の行動は、無意味に『威圧しているだけ』ということになるな。俺は、精神の異形種と名高い真正のキチ○イだから、お前に威圧されたとしても、問題なく歯をむき出しに出来るが、普通のやつなら、そうはいかないだろう。お前の暴力的な行動にビビって委縮し、本来の力を発揮できなかった可能性が高い」
そこで、センは、ダリィの胸倉をつかみかえし、
「そんな非生産的な結果が、お前のいう、勝つための最善か?」
「……」
ただの言葉だったら、
ダリィは、もっと言い返していただろう。
ダリィはヤンキー風味なだけで、本物のヤンキーのように『考え無し』な『脊髄反射だけの行動をとっている』というわけではない。
むしろ、頭の回転はかなり速い方で、センに対する反論はいくらでも思いつく。
けれど、ダリィは、この一瞬、押し黙った。
別に、センに気圧されたわけではない。
ただ、センの目が、あまりにもまっすぐ過ぎたから、
その瞳に特殊な興味を抱いてしまっただけ。
「黙ってんじゃねぇよ、ダリィさんよぉ。こたえてくれや」
ダリィは『一瞬とはいえ、つい言葉を失ってしまった自分』を、
心の中でボコボコに殴りつけ、少しだけ冷静になってから、
センの胸倉から手を離し、
「気合が足りていない雑魚を『本気』にさせるには、魂のハッパをかけるのが一番ってのが、俺の流儀だ……それ以外の方法もあるにはあるんだろうが、得意じゃねぇ。苦手なことを補完するより、得意なことを伸ばすのが俺の生きざま。『ちょっと怒鳴られただけでビビって委縮するようなやつ』をどうにかする手段を持ち合わせていない以上、俺は俺のやり方で、勝率を少しでも上げるために、あがき、もがき、苦しみ続ける。――それが、俺の最善だ」




