78話 ダイナマイト・ダリィはキレやすい。
78話 ダイナマイト・ダリィはキレやすい。
女子チームの、『試合前練習風景』を見つめながら、
センのチームメイトであるグレイが、ボソっと、
「こっちも、全員、特待生にしてくれよ……それでも、勝てるかどうかわかんねぇんだからさぁ……はぁ……」
と、しんどそうに溜息をつく。
「つか、こっち、メンバーがショボすぎるって……せめて、カンツかアストロギアが欲しいなぁ……」
そんなナメたコトを口にしたグレイに対し、
隣に座っている小柄なチームメイト『ダイナマイト・ダリィ』が、
真っ赤な顔で、グレイの胸倉を掴み上げながら、
「誰がショボいメンバーだ、ごらぁあ!」
と、ガッツリ、キレ散らかしていく。
瞬間湯沸かし沸騰器の愛称でおなじみ、ダイナマイト・ダリィさんは、その、可愛らしいベビーフェイスとは対照的に、あまりにもキレやす過ぎるコトで有名なヤンキータイプ。
本場のヤンキーのように『礼節と規範をないがしろにしている迷惑なだけの反社』ではなく、ただ、『ヤンキー風味なだけ』で、中身は、勤勉な努力家であり、基本的にはマナーもルールも守るストイックな男。
ただ、沸点があまりにも低すぎるため、人間関係においては、様々な衝突を起こしてしまう問題児。
「……そ、総合力の話をしてんだよ。君のことをショボいとは一言も言っていない。というか、言うまでもなく、君のスペック高いって、ダリィ」
ぎゅうぎゅうに胸倉をしめつけられて、非常に苦しそうなグレイ。
基本、弱腰のグレイは、暴れ馬をなだめるように、慎重に言葉を選ぶ。
「スカーも、クマートゥも、すごい男だよ。君らはすごい男たちだって。ただ、『僕』が微妙だし、他は一般クラスの生徒だろ? 総合力的に、向こうと比較してショボいって言ってんの。『特待生の中』だと『飛びぬけて微妙』な僕は、ぶっちゃけ、ほぼ一般人みたいなもん。つまり、こっちの特待生は3人。対して、向こうは、控えも含めてフルメンバー。『総合的なチーム力』という視点でみると、こっちのチームは、確実にショボいって。僕、間違ったこと言ってないって……てか、いい加減、離してって。ほんと、苦しい。死ぬって」
グレイの話を聞いて納得したのか、
真っ赤だった顔が、戻っていく。
グレイの胸倉から手を離したダリィは、
「お前、自己評価、どんだけ低いんだよ。少なくとも、一般人レベルではねぇだろ、確実に」
「けほ、けほ……自己評価が低いんじゃないって。周りがすごすぎて、嫌気がさしているだけ。僕だって、普通の学校の普通のクラスにいたら、それなりに鼻を高くしてるって」
ちょっとだけ粗くなった呼吸を整えてから、
グレイは、しんどそうな自虐顔で、
「ぶっちゃけた話、実際のところ、特待生全員で殺し合った場合、最初に死ぬの、完全に僕でしょ。みんな、何かしらの特技を持っているけど、僕は、マジで、何もない」
「妹と合体したら、そこそこマシになるじゃねぇか」
「合体パーツでしかないんだよなぁ……虚しいって。そのしょっぱさで、誇りは抱けないって」
などと会話していると、
後ろに座っていた紙野が、
「妹と合体? お前ら、だいぶやべぇこと話しているけど、大丈夫か? 倫理、息してる?」




