74話 貴様! この! 俺にぃ! 狂気を積んだなぁああああ!
74話 貴様! この! 俺にぃ! 狂気を積んだなぁああああ!
『友達がいない』という『対人関係の領域のみを抽出してイーブンとして見ること』の、いったい、何が悪い」
「対人関係の部分だけを抽出したとしてもイーブンじゃねぇっつってんだよ。……だって、そいつ、彼女いるし」
「なん……だと……」
と、愕然とした顔をしているセンを尻目に、
ヒッキが、
「確かに、パートナーはいるけど、それとこれとは話が別じゃない? 少なくとも、私のパートナーは私の『友達』ではない。そして、他に友人と言える知人も存在しない。だから、もし、君に、友達がいないというのであれば、それは、私と同じということになると思うけれど?」
と、フォローを入れてきたが、
しかし、センは、眼球に血を走らせて、
「同じにするな、裏切り者がぁああ! 恋人がいるのといないのとでは、重みが、まったく違うだろうがぁああ!」
と、バチギレていく。
「てめぇ、俺と同じ『孤高のフルボッチ』かと思ったら、『この世で最も愚かな概念の一つ』である『ファッションボッチクソ野郎』だったかぁ……特待生で、おまけに彼女がいるだとぉ……勝ち組カスごらぁああ! 死で償えぇえええ!」
「……何を償うんだよ。悪いことは、何もしとらんがな」
そこで、センは、天を睨みながら、背中で語る。
「いいか、ヒッキ、覚えておけ。命を全うするためにはね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか、救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……そういう人生をおくってこそ、命ってのは、尊く輝くんだ」
「その思想を全員が実行したら、一代で人類が全滅するが?」
という、まっとうな反論など、右から左。
まったく聞く耳をもっていないセンは、
「というわけで、ヒッキ、今日中に、その『彼女とやら』とは別れるように。心配するな。骨は拾ってやる。俺は孤高だから、『一緒に飲みにいって慰めてやる』なんてことはできないが、『お疲れ』と肩を叩くぐらいはしてやる可能性もなくもない」
「いや、絶対に別れねぇよ。私は、あいつを幸せにするためだけに生きてんだから」
「……てめぇ……今、この俺の前で、ノロケやがったな? この! 俺にぃ! 狂気を積んだなぁああああ!」
と、怒りをあらわにするセンに呆れつつ、
ヒッキは、紙野に視線を向けて、
「やばいな、こいつ。特待生は、変態ばっかりだけど、こいつの方が誰よりも変態かもしれないぞ」
「特待生ごときと、この狂気の男を一緒にしちゃいけない。センエースは、ありとあらゆる世界の全ての業を背負った哀しいモンスター。すべての絶望を喰らい尽くし、その果てに、すべての闇を、その輝きで照らすサダメにある、可能性の獣……」
などと、しんみりとした口調でいう紙野に、
センさんが、
「いや、そんな『世界中の厨二を煮詰めたような運命』は背負っちゃいねぇよ。俺はただの、恋人も友達もいない、真正のフルボッチってだけだから。ファッションじゃないからお着替えできない、孤高界の帝王ってだけの話」




