71話 ポジショニング。
71話 ポジショニング。
「われわれ、神話生物研究会のメンバーに求められているのは『力』だ! お前の『アイテム作成能力』はもちろん認めているが、しかし、上位の神話生物と総力戦になった際の戦力は多いに越したことはない! 世界を守るために、弱い命を守るために、少しでも自分を磨こうとするべきだと思わないか、ええ、残飯マンよ!」
と、強い言葉でたしなめられた残飯マン。
ズシオーは、決して『頭が悪い』というわけではないのだが、しかし、あまり、相手の言動の機微を読んだりはしない。
自分の感情が最優先。
命の鉄火場で、鉄砲玉・特攻隊長として投入する分には非常に優秀なコマだが、こういう日常パートのコミュニケーションディスタンスにおいては、おうおうにして『いらん軋轢』を生んでしまうのが、ズシオーの大きな欠点。
『細やかな会話』というポジショニングでは、だいたい、距離感を間違えている。
「……うっせぇなぁ……声が、デカいんだよ、お前、いつも、いつも」
残飯マンは、ほんのりとキレ顔で、
「まわりに一般人がいる中で、『神話生物の話』とかするなよ。ほんと、デリカシーもリテラシーも終わってんな、お前」
「聞かれたところで、なんのことか分からんだろうし、分かったところで、どうしようもないだろうが。『無用なパニックを防ぐために情報を統制している』のは理解しているが、しかし、その情報管理は、世界規模で行われていることだから、『一般人に、ちょっと話を聞かれる程度』は、何の問題にもなりえない。頭脳労働担当のくせに、その程度のこともわからんのか。戦闘能力も低く、頭も悪いとなったら、お前に何が残るという?」
ズシオーはけっしてバカではない。
というか、頭もけっこうな速度で回る方。
だから、頭脳労働職との舌戦でも、ふつうに渡り合うことが出来る。
ちなみに、口喧嘩で男は女に勝てないというのが常だが、ズシオーに、その常識は通じない。
彼の猪突猛進は、女性の感情論を上回る。
「カンツやバンプティが、いつも、あれだけ、必死に、体を張って、前衛を守ってくれているというのに、その姿を見て、『自分も、ちょっとは輝こう』と、なぜ思えない! 怠慢もいい加減にしろ!」
「あ? 怠慢? お前なんか、カンツやバンプティの半歩後ろに隠れて、ぬくぬくと暴れているだけだろ。私からすれば、お前の方がよっぽど怠慢だ」
事実として、ズシオーは、カンツやバンプティよりは戦闘能力という点で劣る。
潜在能力的には、上回っている部分があるのだが、ズシオーは、大器晩成型なので、花開くまで、まだまだ多くの時間がかかる。
また、カンツやバンプディが、タンクとして最前線を死守して、前線や中距離から火力を叩き込んでいくのがズシオーのロール。
――だから、『危険度』という点では、確かに、カンツよりも、ズシオーの方が少ない。
だが、別に、残飯マンは、本気で『ズシオーが怠慢している』と思っているわけではない。
カンツはタンクを、ズシオーは火力を担当しているというだけの話。




