70話 根拠を言えぇ!
70話 根拠を言えぇ!
まったく野球の練習などしたことないにも関わらず、しかし、達人レベルの超絶技巧を世界に魅せつけることが可能な資質。
それは、異常体力組だけの話ではなく、ヒッキやルギルのような、体力に特化していない者も同じ。
時空桐作学園の超特待生は、根本的な人間としてのレベルが違う。
「がはははははっ! 行くぞ、バンプティ! 貴様の正義を、バットに込めろぉおお!」
「……バットに正義て……それ、どうやるんか、教えてもらいたいんじゃが」
白髪で老け顔で、はやくも前髪が後退している、精神的にもジジイ寄りの青年、
バンプティが、呆れまじりに、そうつぶやいた。
どちらかといえば常識人よりであるバンプティは、
カンツの暴走に対して、いつも辟易する側。
とはいえ、バンプティも、異常体力組の一人なので、
カンツの剛球に、地力で普通についていく。
えげつないほど豪快な鋭い打球が三遊間を割っていった。
綺麗なヒット。
サードを守っていたセンは、そのあまりに鋭すぎる打球に反応することも出来なかった。
凡人に対応できる速度ではなかった。
しかし、『凡人には対応でいない速度に、当然対応できなかった凡人セン』を見たカンツは、
「セン!! その程度の打球、気合で止めんかぁああ!」
と、叫んできたので、センは、
「あんなもんに手ぇ出したら、腕が吹っ飛ぶだろうがぁああ!」
と、普通の文句を叫ぶ。
どこまでも凡人――それが、センエースという男。
「お前なら、やれば出来る!!」
「根拠を言えぇえええ!」
「お前は可能性の塊だ! 何がどうとは言えんが、そんな気がするぅうう!」
「一般人に可能性を見出すの、迷惑だから、やめろぉおお! てか、お前、頭悪くないか?! 時空桐作学園の特待生は頭が悪い!」
心底ウザそうにそう叫ぶセンを、
『相手側のベンチ』から見つめているワイトマジェスが、
「……んん? カンツが、一般クラスの凡人に『高み』を要求するのは珍しいですね」
ボソっと、そうつぶやいた。
それを聞いた残飯マンが、
「ていうか、初めてじゃない? カンツ、バカだけど、無能相手に理不尽なパワハラとかはしないじゃん。有能なヤツが相手の場合、エグいパワハラをかましまくるけど」
「……事実、他の一般人には、なんの要求もしていないというのに、なぜ、彼にだけ……」
と、ワイトマジェスが、首をかしげると、
そこで、ズシオーが、
「武人である私には分かる。サードを守っている彼からは、底知れない根性を感じる」
「めちゃくちゃ、普通の凡人に見えんだけど」
「甘いな、残飯マン。お前は武の研鑽と精進と気合が、まったくもって足りていない」
「武を研鑽する気とか、あんまり、ないからねぇ。私は、体力組じゃなくて、頭脳労働組だから」
けだるげに、そうつぶやく残飯マン。
名前は、かなりふざけているが、
頭脳労働職としての彼の実力は決してギャグじゃない。
また、口では『武の研鑽をする気はない』などと言っているが、
それは、『カンツやズシオーやアクバートやバンプティ』ほど、
狂気的な体力特化の努力に没頭する気はないという意味であり、
『現状』、自分にも武が必要であるとは理解が出来ているので、
ちゃんと、自分なりには本気で、武力の底上げに勤しんでいる。
ただ、残飯マンは、そういう『本音の部分』を、極力見せないタイプの男なので、周りからは誤解されることも多々ある。
残飯マンの『やる気がない』と捉えられてもおかしくはない発言を受けて、
愚直なズシオーが、しかりつけるような口調で、
「われわれ、神話生物研究会のメンバーに求められているのは『力』だ! お前の『アイテム作成能力』はもちろん認めているが、しかし、上位の神話生物と総力戦になった際の戦力は多いに越したことはない! 世界を守るために、弱い命を守るために、少しでも自分を磨こうとするべきだと思わないか、ええ、残飯マンよ!」




