69話 モブレッチマン。
69話 モブレッチマン。
「なんだよ。何か言いたそうな顔じゃないか、紙野くん。意見があるなら、聞こうじゃないか」
「少なくとも、この中では、俺が一番まともかなぁ」
「……『自分の方が、特待生より上だ』などとぬかしきれるラリったエキセントリックさを忘れたか?」
「そういうお茶目なところを含めても、総合的に見て、やっぱり、俺が一番まともだと思う」
「たわけ散らかしたことを……この中で、一番まともなのは、絶対に俺だ。貴様ごときが、モブ力で俺に勝とうなんざ、1000億年はやい。片腹がねじ切れるし、ヘソで茶が蒸発する。『にくいほど、背景に溶け込む、この薄さ』……これが、本物だ。どうだ。モブレッチパワーが、ここに、たまってきただろう? もはや、主役級の連中は、俺を認識できない。生きているだけで、常時『神の不在証明』が完了しているほどの高み。俺は、今、背景(世界)と完全に調和している……そう、そうだったんだ……ここが、こここそが……認知の領域外……その向こう側……」
そんなセンの発言を聞いたヒッキは、
「だいぶ、ガンギまりしているな、君……へぇ……一般クラスにも、特待生以上の変態っているんだな。知らなかった」
「言われているぞ、紙野。変態に変態あつかいされたら終わりだ。精進しろ」
「お前だ。お前が言われている」
と、変態どもが、雁首揃えて、お互いをディスりあうという、なんとも、非生産的な時間が流れていく。
その間に、
アストロギアが、アクバートと、ゴーストライトを打ち取り、チェンジになった。
「ルギル、交代。守備につくぞ」
と、声をかけられたルギルは、
眠い目をこすりながら、
「くそがぁ……体育、マジで嫌い……こんなことして、何の意味があるんだ……」
「身体運動を通じて、大切なことを学べる。あと、健康・安全に生きていくための素養が身につく。それが、体育の理念だ。わー、素晴らしい。……へっ」
と、最後に、自分の言葉を鼻で笑い飛ばすヒッキに、
ルギルは、
「体育を実地しようとか言い出したやつを、殺しにいかないか? そのための協力なら惜しまないからさぁ……」
「悪い提案じゃないけど、色々と精査した結果、守備につくほうが、ギリギリ楽だから、私は、守備につくことにするよ」
「……否めない意見だ……」
「お、ようやく同意してくれたな」
などと、そんなことを言いつつ守備につく天才二人。
どっちも、カンツたちと比べれば、確かに、運動能力は低い方だが、
しかし、
「がははは! ヒッキ、行ったぞぉ!」
一二塁間のちょうどド真ん中に飛んできた鋭いゴロ。
セカンドのヒッキは、サラリとさばいて、クルリと回転しながら、華麗にファーストへと送球。
一塁を守っているルギルは、あくびをしながら、それをノールックでキャッチした。
まったく野球の練習などしたことないにも関わらず、しかし、達人レベルの超絶技巧を世界に魅せつけることが可能な資質。
その特別は、異常体力組だけの話ではなく、ヒッキやルギルのような、体力に特化していない者も同じ。
時空桐作学園の超特待生は、根本的な人間としてのレベルが違う。




