67話 特待生は、皆がみんな、異常体力ってわけじゃない。
67話 特待生は、皆がみんな、異常体力ってわけじゃない。
「がはははは! 相変わらずの、ふざけた身体能力だな、ズシオー。今の打球を取るとは、お見事、お見事ぉ!」
などと叫んでいる彼を尻目に、
センは、渋い顔で、
「身体能力のふざけ具合で言えば、お前の方が上だよ……」
と、素直な感想をボソっと口にする。
すると、隣に座っている紙野ボーレが、
「まあ、俺ほどではないけどな。特待生の連中も、まあまあいいセンいっているのは認めるけど、残念ながら、俺には勝てないかなぁ」
「そうだなー」
すると、
それを聞いていたのか、
後ろのベンチに座っていた特待生の一人『ヒッキ』が、
「そっちの君、ずいぶんと自信があるんだな」
と、紙野に対して一言感想を口にしてから、
「あんな『終わっている』と言っても過言ではない『狂った化け物ども』を前にして、自分の方が上だと言える気概……すごいね。私にはないものだ」
と、疲れたような顔で、そうつぶやいた。
ヒッキは、一見すると、とても特待生には見えない、
死んだ魚の目をした不健康そうなヒョロガリ。
その見た目から受ける印象と同様に、
内面もしっかりと陰キャさんで、
基本的には鬱屈としている。
そんなヒッキに対して、紙野が、
「そんなこと言いながら、実は、自分の方が上だと思ってんじゃないの? お前だって、超特待生様なんだから。ほら、本音を言えよ。俺様は宇宙最強の帝王ですって。53万ですって。醜い自己顕示欲を爆発させて、民衆と世界から嫌われろ」
と、ヒッキ以上に卑屈な事を口にする。
そんな、尖ったクソ人間ぶりを発揮する紙野に、
ヒッキは、フラットに鬱屈とした表情のまま、
「正直、特待生なんか、ならなきゃよかったと思うよ……たまたま、色々と器用だったってだけで、私には、あいつらほどの『異常性』はない……なのに、同じ特待生というだけで、『あの化け物どもと同じことが出来るんじゃないか』という、とんでもない誤解をうける……いや、無理だから、普通に。私は体力的には普通なんだから。というか、あいつらは、ほんと異常なんだから。同じ人間じゃないんだから。もう、ほんと、別枠にしてほしい。『異常体力超人組』と『普通の特待生』に分けてほしい」
ぶつぶつと、しんどそうにそうつぶやいてから、
隣で座っている『ルギル』に、
「お前も、そう思うだろ、ルギル。同意してくれ。そして、傷をなめあってくれ」
と、声をかける。
しかし、返事がない。
ただの『しかばね』のようだ。
「……ルギル? ちょっと? ……っ…………あ、こいつ、また目をあけたまま寝てやがる……ちょ、起きろって。そして、私の悲観に同意してくれって」
と、言いながら、ちょっと強めに肩を揺らすと、
ルギルは、
「ん……んー……」
と、眠そうな顔で、目をこすりながら、
「あん? ……まだ、イニング終わってねぇじゃん……私の打順でもないし……え、なんで、起こした?」
と、ブチギレ顔で、ヒッキを睨むルギル。
そんな彼に、ヒッキは、ケロっとした顔で、
「私の悲観に同情してもらいたかったから」
「何を言ってるのか、一ミリもわかんねぇ」
 




