64話 神算鬼謀(笑)。
64話 神算鬼謀(笑)。
「お前、倫理観、どうした? 発言が、とにかく、やばすぎるだろ。ていうか、ビアラ、普通に可愛いだろ。あいつを微妙って、どういう目ぇしてんだ」
「だから、あの美形集団の中ではって話だよ。神話生物研究会のメンバーって、基本、美形ばっかりだろ? まあ、バンプティだけは普通に微妙だが……仮に、神話生物研究会のメンバーが、カードゲームになったら、ビアラと、バンプティが、ハズレ枠だな。ははは」
などと笑っている紙野を横目に、
ドン引き顔のセンは、ボソっと、
「……言っておくが、ビアラもバンプティも、実践的な殺人術をマスターしているらしいから、お前は、社会的にではなく、普通に殺されると思うぞ」
「原初の神と言っても過言でないこの俺を、あいつらごときが殺せるわけないだろ。俺を殺せたら大したもんだよ」
「……」
そこで、センの頭の中で、夢の中でのアレコレがよぎった。
(もし、あれが、全部、夢ではなかったら、こいつの発言は嘘じゃねぇ……こいつは、『原初のイタズラ』を持つチート神で、カンツたちは、ゼノリカの中間管理職でしかないから……)
そう思うのだが、
しかし、同時に、
(……あらためて考えると、だいぶめちゃくちゃな夢だな……そっちを現実としてとらえている方が、明らかにおかしい……)
夢と現実のはざまで、ずっと、揺らめいているセン。
何が本当で、何が幻なのか、
時間が経つにつれて、どんどん曖昧になっていく。
紙野の思考誘導は止まらない。
おそろしく繊細で巧妙な神算鬼謀。
すべての発言・行動、一挙手一投足がセンを翻弄している。
どうすれば、センエースを惑わせることができるのか、
その辺を、1000億年ぐらいかけて勉強してきたかのような、
とてつもない老練さを感じさせる。
★
平均的一般生徒センの日常は、極めて退屈なものだった。
どうでもいい授業をダラダラと受けて、昼休みになったらテキトーにメシをくって、たまにトレイにいくだけの簡単なお仕事。
座学の授業では、特筆すべき点は皆無だったが、
しかし、午後の体育では、少々、様子が違った。
神話生物研究会のメンバーは、全員、超特待生であり、
一般生徒とは隔離された『特待生クラス』で授業を受けるのだが、
体育だけは、いつも、一般クラスと合同で受ける。
今回の体育の内容は、ゴリゴリの野球。
本来、繊細な特殊技能が必須である野球が、体育で行われることはない。
サッカーやバスケやソフトなど、技能的に低次元でも、どうにか成立するスポーツが選ばれるのが基本だが、しかし、イカれた運動能力をもつ特待生と合同ということもあり、ある意味で『ちょっと変わった種目』が選ばれることになった。
野球が、一般的な高校体育で選ばれない理由は、『難しすぎるから』である。
がっつりと、毎日練習しているピッチャーでも、ちゃんと『ストライク』に入れるのは、実のところ、一苦労。
外野がフライをさばくのも、内野がゴロをさばくのも、
ちゃんと練習している球児でも、実のところ、一苦労。




