59話 神話生物研究会のメンバーは、ハンパない。
59話 神話生物研究会のメンバーは、ハンパない。
「みんなは本当に優秀だ。マジメさ、勤勉さだけでものを評価するのであれば、神話生物研究会の面々にも劣ってはいない!」
『神話生物研究会のメンバーにも劣らない』というセリフは、この学校の教師陣が口にするセリフの中で、最大級の、『モブに対する賛辞』である。
それが、ただのリップサービスだと分かっていても、
それでも、『神話生物研究会のメンバーにも劣らない』と言われたことを嬉しく思ってしまうのが、この学園にいる生徒の哀しい性。
つまりは、そのぐらい、
この学校の生徒にとって、
神話生物研究会のメンバーは、ハンパではない存在ということ。
そこらのアイドルなんか目じゃないぐらい、
この学園において、神話生物研究会には『際立った華』がある。
「さて、それじゃあ、明日から始まる『選抜大会』についての資料を配るから、後ろにまわしていってくれ」
『選抜大会』の概要について、
いまさら、詳しく説明されることはない。
簡単に言えば、その大会で好成績を収めると、『神話生物研究会』に入れる権利を得られるというもの。
基本的には『スカウト制』で、『入部希望』を出しても通らないのが神話生物研究会。
『類まれな才能が認められて、入学と同時にスカウトされて入会』という形以外で、神話生物研究会に入る方法は、唯一、選抜大会で際立った資質を魅せつけること。
この選抜大会は『毎年一回』行われており、
だいたい、5~6年に一人ぐらいの割合で、
『神話生物研究会に編入する者』が現れる。
センから資料をまわされた紙野は、
さらに後ろの席へと資料を回しながら、
センに、
「ついに、この時がきた……俺は、この大会で、可能性を魅せつけて、神話生物研究会に編入する。閃。悪いな。今回の選抜大会を境に、俺とお前との間には、超えられない壁が出来てしまうが……しかし、悲しむ必要はない。もともと、俺ほどの逸材が、入学と同時にスカウトされなかったのが間違いだったんだ。『世界の主人公』の向こう側に辿り着いた、この紙野さんが選ばれなかったことが間違い。いや、主役は遅れて現れるもの――という法則をあてはめた場合、むしろ、この状況は必然だったのかもしれない。そうだろう?」
「そうだな。紙野さんの言う通りだ。反論する余地がない。反論の余地がないので、会話が終わっても仕方がないな」
序盤から既に話を一ミリも聞いていなかったセンは、
紙野からの同意要求に対して、
反射だけの全肯定をかましていく。
基本的に、センさんは、どうでもいいこと対しての興味のなさがハンパない。
どうでもいい相手と、どうでもいい会話が出来ること――これが、ボッチにならないための必須スキル。
だが、センさんにそれはない。
『やべぇやつとファントムトークに興じる』ということは可能なのだが、『場をもりあげるための、どうでもいい雑談』に関しては、一ミリたりともする気がおきない。
ファントムトークと雑談、そこに、どんな違いがあるのかという線引きは、あまりにも微細なニュアンスが過ぎるので、文章表現を成すのが難しいのだが、とにもかくにも、それが事実。
センは、自分の意志でボッチになっているのだが、
しかし、仮に、その道を望んでいなかったとしても、
性格的な問題で、ボッチになっていた可能性は非常に高い。
偽悪とか偽善とかが、色々と、ないまぜになっているため、根本的な部分が、少々、見えなくなっている部分があると思うが、実のところ、センさんは、普通に、ちゃんと性格が悪いのである。
※ ちなみに、センにとって『紙野』という存在は、現時点における『最重要人物』であるはずなのだが、しかし、紙野ボーレの雰囲気が、あまりにも、『ゆるモブ』すぎて、『殺しておいた方がいい最重要人物』という認識から、どうしても外れてしまう。
『敵として認識しておいた方がいい』と、脳の一部分では、明確に理解していながら、しかし、紙野ボーレと向き合っていると、ついつい『なんだ、このカス。どうでもいいな。無視しておこう。それが最善』と思ってしまう。
――反則的に、裏設定を描き殴っておくが、
紙野が『ボーレ』のフラグメントを使ったのは、
そこの部分に大きな理由がある。
いわば殺意や敵意に対する『いしころぼうし』的な役割。
『ボーレ』というキャラクター概念には、『確かに抱いていたはずの敵意を抱かなくなってくる』――という特質が付与されている。
要約すると『あまりにも雑魚モブすぎて、つい、ナメてしまう』という特質。
その特質は、実のところ、『ヌル』も便利に使っている特質の一つ。
紙野は、その『実は優れている特質』を応用して、センエースに対して、
『夢と現実の曖昧さ』を、より強く脳裏に焼き付けようとしている。
センエースの性格等を考えた場合、『ボーレ』という手段は、実のところ、かなりするどく刺さる。
細かな布石すら、神の一手にしてくる稀代の打ち手。
あまりにも容赦がない紙野。




