56話 厨二力が留まるところを知らない、高二病に羽化する寸前の厨二。
56話 厨二力が留まるところを知らない、高二病に羽化する寸前の厨二。
(……カンツやアクバートたちは、一般人の俺では、足元に及ばない天才たち……そんな、雲の上の連中に対する嫉妬心が、歪んだ欲望を産んで……『あいつらに過剰なほど慕われる俺』……という厨二妄想を夢に見たんだとしたら……うわぁ……)
その可能性も、現時点ではゼロではない。
その事実を前に、センは、頭を抱えてうずくまる。
(だ、ださすぎる……)
顔が熱くなった。
耳まで赤くなって、身悶えする。
(た、頼むから、『夢ではない』というパターンであってほしいけど……現状の状況証拠から鑑みるに……ほぼ完全に……厨二さんの妄想だな……)
持ち前の『厨二力』が盛大に大爆発する、
という思春期特有の恥ずかしさに興じるセン。
その光景は、普通に気色悪いものの、
しかし、特に『不可思議』と呼べるほどの異常ではなく、
結局のところは、極めて平常な男子高校生の日常に過ぎない。
※ センは、現在、『これまでの全て』が『夢であった』という可能性を強くつきつけられている。これは精神的な面でいうと、『記憶の消去』よりも、はるかに厄介な状況。『痛い夢を見る』という絶望は、センエースのような『厨二でありながら、己の厨二を、どこか俯瞰でみている――と勝手に自負しているが、実はまったく厨二力が止まらない高二病になりかけている厨二』にとって、一番重たい苦悩となる。センエースの『状況』は、常に『想定できる最悪ケースのナナメ上』をいく。
「……朝から、しんどっ……」
ため息をつきながら、
センは、ようやく、ベッドから降りる。
『いつも』のように、
顔を洗い、
歯を磨き、
メシを食って、
学校にいく準備をして、
家を出る。
何も変わらない、『いつも』の風景。
『一般人・閃壱番』の『日常』に『おかしな点』は一つもない。
★
『神話生物研究会』は、何をしているクラブなのか、外部の者にとっては、何一つ分からない部活動。
ただ、神話生物研究会に所属していた者は、例外なく、人生のプラチナチケットを手に入れている、ということだけは、世界的に有名。
高卒でも、有名な大企業に入ることが可能となり、
世界的に有名な大学や、研究機関に入ることも、
ほぼ指定校推薦の勢いで可能。
まあ、けれど、それも当然と言えば当然の話。
『神話生物研究会』に所属しているのは、
文字通りの、世界中から集まった精鋭。
超高校級の超人たち。
そんな彼らの中でも、
特に際立って優れた才能を持つのが、
『カンツ・ソーヨーシ』。
男性ホルモンの塊であり、見た目は完全にゴリラだが、
飛びぬけた才能を無数に有している稀代の大天才。
運動系、勉強系、文化系、
すべてにおいて、すさまじい才能を発揮している万能超人。
『カンツがいかに狂ったような天才であるか』というのは、
朝礼の時、頻繁に表彰されるし、
新聞やネットニュースでもたびたび取沙汰されるので、
この学校にいる者だけではなく、日本中・世界中の人間が知っている。
そんな世界的に超有名な超人高校生であるカンツは、
今、
「がはははははは!」
と、ラリったように笑いながら、
日課である『外周の走り込み』を行っていた。
朝のうちに、毎日10周するのが彼のルーティン。
 




