54話 いつだって、最後の砦は一人だけ。
54話 いつだって、最後の砦は一人だけ。
「ヌルをナメていた。ナメすぎていた……で、今になって思うんだけど……それが、あいつの能力の一つなんじゃないかと思う。『敵に過剰なほど己をナメさせる』という能力……これは、アホみたいだけど、よくよく深く考えてみると、かなり厄介な能力だ……こちらに『万全』や『警戒』を許さない資質……『足元をすくう』ことに特化した力。たぶん、テンドーの戦略的資質を、自身のパッシブへと昇華させている。その上で、セイバーの『脆さ』をコーティング……かなり特殊だが、いいビルドをしているよ」
「……何言ってんのか……わかんねぇ……頭が……動か……」
「会話が成立しているだけでも大したもんだよ。お前は本当に究極の超人だ。世界が、お前に期待している理由、よく理解できたよ……俺も、もう、『お前に賭けるしかない』と思っている……」
「……」
「このまま、俺が失敗した場合、そのまま、俺の『資質』も奪われてしまうだろう。俺の資質が、あいつの武を補強してしまう……あいつは、より強くなる……不遜でも自惚れでもなく、事実として、俺という特異CPUを得たヌルは、これまでとは比べものにならないぐらい戦闘力がアップするだろう……」
「……」
「頼んだぞ、センエース。……どうにかしてくれ、マジで」
「ク……ソがぁ……」
そこで、センは、ようやく気絶した。
動かなくなったセンを見つめながら、
カミノは、
「……十席に届いた連中は、漏れなく破格の資質を持つ化け物ばかり。全員をキッチリと強化することが出来れば……お前を支える器が劇的に補強されて……『絶対的精神的支柱』が次の段階に進化する。……俺に出来るのは、そこまでだ……あとは、ソルAと一緒に、時間稼ぎすることしか出来ない……」
ボソボソと、
「センエース……お前の世界がどうなろうと知ったこっちゃないし、『お前にとってのトゥルーエンド』とか興味はないが……お前が死んだら、誰もヌルに対抗できなくなる……そうなったら……ニコトピアを復活できない……それだけは、死んでも許容できねぇ……」
ギリっと奥歯をかみしめて、
「頼む……頼むから……進化してくれ……お前だけが頼りだ……センエース……」
とことんまっすぐな目で、センを見て、
「……たくしたぞ」
★
「――はっ!!」
目が覚めた時、
センは、ベッドの上だった。
『ここ』は、彼――『高校一年生・閃壱番』が『生まれ育った実家』の自室。
決して高級品ではないが、ぬくぬくと温かいベッド。
『いつも』と何も変わらない、
穏やかな、『平日』の朝。
柔らかな太陽の光が、窓の外から降り注ぐ。
どこまでも平和な、日本の朝。
「……はぁ……はぁ……」
チチチっと、スズメの鳴き声が聞こえた。
どこまでも静かで、優しい朝だった。
「……夢……」
寝汗でベットリしている両手を見つめながら、
ボソっとつぶやくセン。
『やべぇヤツに、やべぇことをされた夢』を見ていた……
――『ような気がする』が、しかし、
(……いや、夢じゃねぇだろ……夢じゃねぇよな? え、もしかして、ゼノリカどうこうって、全部夢? ヨグを倒したとか、銀の鍵とか……全部……夢? ……いや、そんなわけ……)
記憶はある。
これまでに何があったか。
覚えてはいる。
間違いなく覚えてはいるのだが、
――その記憶に対する『現実感』というものが、えげつないぐらい希薄だった。




