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EX話 ゼノリカの規律。

17000字ちょっとと、いつもの15話分ぐらいあるので、

時間がある時に読んでいただければと思っております。


 EX話 ゼノリカの規律。


 栄えあるゼノリカの天下、楽連の武士、督脈の23番、上星じょうせい

 本名『ウラジミー・リー』。

 彼の母親は、先天的な遺伝子の障害を患っており、ゼノリカが支配する第二~第九アルファ以外の世界で生まれていたら、7歳までには確実に亡くなっていた。


 ゼノリカは、『正しく努力する者』に対する社会的援助を惜しまない。

 リーの母は、『世界に尽くすための努力』という覚悟をしめした。

 『精一杯、力の限り闘病し、折れることなく自分の人生と向き合う』

 その覚悟を、ゼノリカは認めた。

 だから、他の世界の視点では『ありえないレベルの援助』を受けた。


 膨大な援助を受け、当人も必死に頑張った、

 が、しかし、それでも、完治することはなかった。

 『とんでもない速度で筋肉が萎縮し続ける』という先天的な病は、まるで、神に『そうあれ』と命じられているかのように、どんな魔法も治療も受け付けなかった。

 『ゼノリカ上層部の代行』として彼女の元に訪れた『ネス』という名の愚連A級武士が、『神の慈悲』という名前の特殊な魔カードを使ったことで、どうにか、進行を抑えることには成功したが、そこが限界だった。

 やまいの中には、たまに、そういうものが存在する。

 どうあがいても治癒できない、まるで『神呪』のような奇病。

 天上の奇跡すらはねのける数奇な因果。

 ソレを、運命のアリア・ギアスなどと呼ぶ者もいる、


 本来、10歳を迎えることすら、絶対に不可能な状態だった彼女だが、

 ゼノリカの多大な援助を受けたことで、

 最終的には25歳まで生き、子供を一人産むことができた。


 彼女は、ゼノリカに感謝した。

 その想いの全てを、息子であるリーに伝えた。

 この想いを後世に残すことこそが、自分の責務であると確信していたから。


 リーが『ゼノリカのために尽くしたい』と願うようになったのは自然な流れだった。


 リーは、母の死に際に、彼女の手をとって、

 『僕は、必ず、ゼノリカの天上に上がる。あなたの息子は、偉大な神族となり、ゼノリカに深く貢献する。母さんがこの世に産まれてきた意味は、とても大きかったと、世界に刻み込んでみせる』

 力強く、そう宣言した。

 リーの母は、嬉しそうに、笑って息を引き取った。


 母が亡くなった日のことを、リーは忘れたことがない。

 どんなに苦しい鍛錬も、その日の痛みを超えることはなかった。

 だから、リーは強くなった。

 もともと、天才的な資質を持って生まれてきていた。

 その『潤沢な才能』に溺れることも、慢心することもなく、自身の天賦を惜しみなく磨き尽くしたことで、リーは、素晴らしい速度で昇格を続けた。

 そして、ついには、『天上までもう少し』というところまでたどり着くことができた。


 ――しかし、『もう一歩から』が遠かった。

 『あと少しで天上に届く』という瀬戸際で、リーは長く停滞することになる。


 天下最高位の治安維持組織『楽連』――その中でも最高位である『督脈のナンバーズ(楽連360名中の上位28名だけが名乗れる修羅)』は、全員が、神族になりうる器を持った超人ばかり。


 リーは、間違いなく武の天才で、そして、狂気的な努力家なのだが、しかし、ここにいるのは、全員が、リーと同等か、もしくは、それ以上の才能を持ち、リーに匹敵する努力が出来る化け物ばかり。

 全員が、全員、漏れなく、必死に、天上を目指して研鑽を積んでいた。

 リーがどれだけ努力をしても、周りも同じだけ努力をしているので、振り切ることができない。

 振り切れないばかりか、徐々に差が開いてくることもある。

 『努力の量』が『リミット目一杯』で横並びになると、あとは『才能の質』だけがものを言うようになってしまう。

 リーは、ほぼ100点の天才だが、ここには、101点や、102点の天才もゴロゴロいる。

 さらに、その上の『天上に属する神族』になると、120点や150点も存在する。

 『ゼノリカの層の厚さ』は、外から見ている分には、なかなか掴み取ることができない。

 だが、中枢に食い込み、そこで必死に『もがいてみる』と、心底イヤになるほど実感する。

 ここには、イカれた天才しかいない。


 ――まるで、毎日、朝から晩までトライアスロンをしている気分だった。

 毎日、毎日、『長強(督脈の1番。天上に昇格できる可能性のある順位)』を目指して、体力の限界まで自分をイジメぬく。

 誰よりも頑張っている――という自負はあった。

 己の命を限界まで削っているという誇りを胸に抱いて努力を続けた。


 けど、一向に順位は上がらない。

 当然。

 自分より才能のある超人たちが、自分と同じく、限界まで、自分をイジメぬいているのだから。


 『督脈の23番、上星じょうせいまでの出世』は順調だった分、リーの焦燥は深くなる。

 母の死という挫折を知っているからといって、『停滞の痛み』を感じないわけではない。

 むしろ、『はやく神族に上がって、母の自慢になりたい』という強い想いが足かせになってくる。


 『自分は本当に上にあがれるのか?』

 『一生、自分の番はまわってこないんじゃないか?』

 『このままだと、母の自慢になれない』


 時折、自分より年下の後輩も、この鉄人レースに参加してくる。

 しばらく停滞している者が、経験せざるをえない、下からの突き上げ。

 自分より年下ということは、『努力の時間的総量』は、確実に、自分より下ということになる。

 それなのに、彼らは、自分より高い順位をかっさらっていく。

 せっかく、『上星(23番)』まで上がったのに、

 停滞している間に、後輩が5名ほど上にいったせいで、リーは『銀交(28番。督脈ナンバーズの一番下)』にまで下がってしまった。


 焦りは加速する。

 加速した焦りは心を曇らせていく。

 いつしかリーの中で、黒い感情が芽生えてくる。

 『僕より上にいる全員を殺してしまえば、僕が上に上がれるんじゃないか?』

 もちろん、そんなわけがない。

 それが分からないほど、リーは愚かじゃない。

 ゼノリカでは、他人の足を引っ張ることを禁じている。

 それに、そんなことをしたら母が悲しむ。

 わかっている。

 わかっているのだが……『心』とは、理性で制御できるものではない。

 どれだけ、身がちぎれるほどの努力を続けても、いつまでたっても上がらない順位を前に、ドス黒い感情が、日に日に肥大化していく。


 ――そんなある日のこと。

 栄えあるゼノリカの天上、九華十傑の第十席序列三位、エキドナール・ドナから、直々の命令を受けて、『壊れたモンスター討伐』のミッションをこなすことになった。

 督脈ナンバーズに属する下位5名でチームを組むこと、という条件を出されたことから、今回の討伐相手が、そこそこの相手であることがうかがえる。

 『壊れたモンスター』にも格があり、

 『天上が出る必要がある敵』、

 『長強やUV1が必須で出なければいけない敵』

 『楽連の上位がチームを組まなければいけない敵』

 『とりあえず、楽連の誰かを出しておくべき敵』

 『愚連でもどうにかなる敵』

 などと、言った感じで、大雑把にわけられている。


 この手のミッションを受けること自体は珍しくない。

 壊れたモンスターが暴れるというのは、稀によくある。

 ただ、今回のミッションは、少しだけ様子が違った。

 リーは、秘密の情報網から、『今回のミッションは、天上に上がれる器を持つ者を量るテストである』という話を耳にした。

 このミッションで、『トップの成績』を示した者は、一足飛びで、天上に上がれるらしい。

 ……冷静な状態なら、そんな話をうのみにすることはないのだが、

 しかし、『例外』というのは、どこにもでもある。

 焦っているリーにとって、飛び級試験のウワサは、溺れている時のワラだった。


 『飛び級』自体は、ありえない話ではない――という知識も裏目に出た。

 十席の中には、長強・UV1・アンドロメダを経ずに上に上がった者が何人かいる。


 『自分もそれになれるんじゃないか?』と、夢を見る者は、第二~第九アルファにおいて、決して特別じゃない。

 チラついた可能性が、リーの歪みを、より強くする。

 『このミッションでトップの成績を取るためなら、なんでもする』という、歪んだ覚悟を胸に抱いてしまった。


 結果、リーは、同じ『督脈のナンバーズ』に所属する26番の水溝スイコウを殺してしまった。

 リーは、必死になって、壊れたモンスターを追い詰めたのだが、

 スイコウが、トドメを刺そうとしやがったのだ。

 ――オールラウンダーなリーと違い、スイコウは火力特化型。

 汎用性の高いリーが多角的な視点から敵を削って、最後に特大火力のスイコウがトドメを刺す。

 この流れは、何もおかしなものではない。

 ゼノリカの戦闘マニュアルにも記載がある、ごくごく普通の討伐手順。

 そんなことは分かっている。

 わかっているのだが、

 しかし、わかっているから、なんだってんだ。


 ――人間の感情ってのは、『わかっている』なんて言葉でどうにかなるものじゃない。


 スイコウが、壊れたモンスターにとどめを刺そうとした瞬間、

 リーの中で、『それまでの鬱積』が爆発してしまった。


 『僕より年下のくせにでしゃばるな』

 『僕の方が努力してきたのに』

 『なんでこんなに苦しまないといけない』

 『順位だけじゃなく、神族の地位までかすめとるのか?』

 『なんで、僕ばかり、こんな辛い目にあう』

 『僕は、上に上がらないといけないんだ』

 『なんで、どいつもこいつも、僕と同じぐらい努力ができるんだ』

 『おかしいだろう』

 『なんで、僕が一番じゃないんだ』

 『絶対に許さない』

 『辛い』

 『くるしい』

 『もう楽になりたい』

 『さっさと天上にあがりたい』

 『もう辛いのはたくさんだ』



 ――『母さんを殺したこの世界を許さない』



 無数の感情が積もりに積もって、



 『ああああああああああああああああっ! ふざっけんなぁ、ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 気づいた時、

 リーは、スイコウの心臓を貫いていた。


 言うまでもないが、『合理的・計画的な犯行』ではなかった。

 周りには、他のナンバーズもいた。

 隠し通せる犯罪でないことはわかっている。

 あまりにも愚かしい、衝動的な殺意の暴走。


 スイコウの心臓を砕いて、数秒後、


 『っっぁ……ぇ……ぼ、僕は……何を……』


 サァっと、青くなるリー。


 『回復……欠損治癒……蘇生』


 頭の中で、グルグルと『どうするべきか』という問題が浮かんでは跳ねる。


 もちろん、すべてが遅かった。

 もはや、何をしても意味がない。


 ――と、そこに、ドナが、瞬間移動で現れた。

 ドナは、リーの顔面を、一度、ガツンと殴ると、

 そのまま、スイコウの心臓に向けて回復魔法を使う。

 ギリギリのところで息をふきかえしたスイコウ。


 ドナがいたからどうにかなったが、

 そうでなければ、スイコウは確実に死んでいた。


「――死夜の薔薇――」


 ドナは、胸の前で両手を交差させて、

 最強のグリムアーツを、壊れたモンスターに向けて放った。

 あっさりと瞬殺されたモンスターを尻目に、

 リーを睨みつけ、


「何か、言い分はあるか?」


 そう問われたリーは、

 一度、絶望の顔を浮かべたが、


「……」


 フっと、何か、気がぬけたような顔で微笑んで、


「いえ、なにも」


 そう言って、

 リーは、その場で膝をついて、両手を頭の後ろにまわした。

 投降と拘束を拒まないという意志表示。

 穏やかな顔で、彼は、気絶しているスイコウに視線を向けて、


「……悪いな……ほんとうに……もうしわけない……ごめん……すまない……ごめんなさい……」


 最適の言葉を探しているかのように、

 謝罪の言葉を並べる彼に、

 ドナは、


「ただまっすぐ前に進む。それが、一番難しい」


 言葉を並べてから、


「残念だ」


 失望を口にした。

 その言葉を耳にしたリーは、


「……」


 それでも、ずっと、気がぬけたような顔で、微笑んでいた。


 ★


 厳粛な裁判が行われた。

 『手柄を取られることに憤慨して、味方の心臓を貫き、殺しかけたこと』に対するゼノリカの判決は斬首刑。

 ゼノリカの上層部は、『味方の足を引っ張ること』を絶対に許さない。

 ここでテキトーな恩赦などを与えてしまったら、組織の核が歪んでしまう。

 遊びではないのだ。

 数百億の命を背負っているという、巨大世界政府としての強い自負が、

 ここでの判決に、容赦を許さなかった。


 裁判長から『最後に何か言いたいことはあるか?』と問われたリーは、


「申し訳なかったという気持ちよりも、ようやく楽になれるという感情が勝っています……たぶん、僕は、最初から歪んでいたのでしょう。母を見殺しにしたこの世界を、僕は……多分、ずっと憎んでいた」


「君の母親は、ゼノリカから多くの支援を受けていたという記録が残っているが?」


「ゼノリカを恨んでいません。母がゼノリカから受けた支援に関して不満は何もありません。上は、本当に、よく頑張ってくださいました。おかげで、母は延命できて、僕が産まれて……短かったけど、幸せな時間を過ごすこともできた……できれば……自慢できる息子でありたかった……もうしわけない……本当に……不出来な息子で……もうしわけない」


 そう言って謝ってから、


「ゼノリカに対する感謝……申し訳ないという想い……全部、本物です……けど……ずっと、僕の奥にこびりついている……母を殺した世界に対する憤怒が……クソったれな運命が……何が、運命のアリア・ギアスだ……ふざけるな……ふざけるな……」


 一度、奥歯をギリギリとかみしめてから、



「……でも、そういうの、全部……もうなくなると思うと……ホっとしています。だから、できれば、どうか、はやく……僕を、母のもとに送ってほしい……あの世で、謝ります。バカな息子で、本当に申しわけなかったと」



 ――こうして、リーの首ははねられた。

 死にゆく間際、

 リーが思ったことは無数にあったが、

 結局のところ、


(――ごめん、母さん――)


 ずっと、その重責が胸の奥に刺さっていた。

 いつまでたっても天上に上がれない、ふがいない自分。

 母の自慢になれない、みっともない自分。


 ずっと、ずっと、苦しくて、

 ずっと、ずっと、孤独で、


 助けてほしいと叫びたかったけれど、

 それすら出来ない苦悩の奥で、

 ずっと、ずっと、もがいて、あがいて、

 そうやって生きて、

 そうやって死んだ。

 これは、そんな男の――


 ――どこにでもある、テンプレな、再出発の物語。




 ★




 おぎゃあと、産声をあげているのが自分だという理解。

 その理解よりも先に、リーは、赤子の自分を抱きしめている母を見て驚愕した。


(母さん……)


 顔が少し違う。

 かつての母よりも、健康そうで、肉付きがいい。

 目の色とか、髪の色とか、肌の色とか、そういうのも普通に違った。

 だが、一目でわかった。

 目の前にいるのが、自分の母であると。

 死ぬ気でリーを産み、必死に育て、最後の最後まで愛情を注いでくれた母。


「元気に産まれてくれてよかった……それだけでいい……それだけで」


 幸せそうな母の腕の中で、

 リーは、精一杯泣いた。

 なんの涙なのか分からない。

 残った羊水を吐き出すため――きっと、それが、一番の理由だろうけれど、

 でも、たぶん、それ以外の感情もたくさんあった。


 涙があふれてとまらない。

 そんなリーの頭の中に、

 声が響いた。



(――ウラジミー・リー。お前の中に『弱さ』という『歪み』があるのは事実。しかし、可能性があることも事実だ。だから、ゼノリカの王として、最後のチャンスをやる。『第二ベータ』に転生させてやったから、そこで覚悟をしめせ。もしわずかでも穢れたら、今度こそ無意味に死ね。ただ、もし、覚悟を示せたのであれば、第二アルファに……ゼノリカに戻すことも検討してやる。別に、ゼノリカに戻りたくない、というのなら、テキトーに生きて死ね。どうするかは自分で決めればいい)



 その声は、ただの幻聴だったのかもしれない。

 『くだらない妄想に過ぎないのではないか』と、のちのリーは思うようになる。

 『かつて一緒に仕事をしたことがある愚連のA級武士の声に似ている』などとも思ったことがあったが、そんな疑念すら、いつしか霧散してしまった。


 次第に『妄想だろうと、そうじゃなかろうと、どっちでもいい』とも彼は思うようになっていく。


 大事なことはそうじゃない。




 ★




「リー、あなた、ちょっと頑張りすぎよ。少し、休みなさい」


 母にそう言われるが、しかし、リーは首を振る。


「ちゃんと、母さんの自慢でありたいんだ。だから、止まりたくない」


「あなたほど自慢にできる息子は他にいないでしょう。あなたは世界一の天才なのよ。3歳の時点で、すでに、世界で最も優れた勇者……自慢になりすぎて、逆に怖くなるレベルだから、むしろ、ちょっと抑えなさい。このままだと、もしかしたら、あなた、神様とかになっちゃうんじゃない? そんなところまでいかれちゃったら、お母さん、普通に困るわ」


「この程度じゃ話にならないよ、母さん。ゼノリカには、僕なんかとは比べ物にならない神が、山ほどいるんだ」


「いつもあなたが言っている、その、『ゼノリカ』って、いったいなんなの?」


 そこで、はじめてリーは鍛錬の手を止めて、

 ニっと快活に微笑んで、


「すべてを包み込む光」


 そう断言した。




 ★




「――いつも、悪いな、超苺。ほんと、助かっているよ」


 リーが転生したのを確認した直後、

 『神の王』は『知り合いの神』に、そう声をかけた。

 現世とは隔絶された世界『神界』――そのさらに深部にある『神界の深層』に生きる女神の一人『超苺・戯画咲・鏡羅』。


 ――命を転生させることは、神であれば可能。

 ただし、『転生』に関するスキルを持った神でなければ無理。

 転生に関わる『資質』をもっており、かつ、その資質を磨く努力をした神でなければ出来ない超絶技巧。

 すぐれた転生技能を持つ神であれば、ただ輪廻転生を実行するだけではなく、『強くてニューゲーム』状態で転生させることも可能。

 ただ、どれだけの資質を持っていようと、『際限なく転生させること』などもちろん、どんな神でも不可能。

 ――どんな神でも、不可能。

 どんな神でも。


 ――ちなみに、言うまでもないことだが、センに、他者を転生させる才能はない。

 『別の世界に転移させること』ぐらいなら出来るが、転生させることは難しい。

 絶対に不可能ではないが、とてつもなく難しいのが実情。

 この辺は、外科手術で例えると、分かりやすいかもしれない。

 センが他者を転生させるのは、

 医大一年目の学生が心臓バイパス手術に挑むようなもの。

 ……そんな感じ。


 転生の技能は天才が長年の鍛錬を積む必要がある。

 センの場合、10億年ぐらいは鍛錬をつまないと不可能な領域。


 センの知り合いの神――『超苺』は、

 ダルそうな顔で、


「私を便利なコマ扱いするのはやめてくれる? 不愉快なんだけど」


 センを睨みながら、


「あんたのことを、神の王だとは認めているけれど、でも、私は配下になったわけじゃない。私は、あんたが王をしている世界で生きているだけ」


「わかっているよ。だから、俺は、絶対、お前に、『命令』はしないだろ。あくまでもお願いだ。聞いてくれてありがとう。感謝しているよ。愛してるぜ、超苺さん」


「……それ、やめろ。ちっ……もう、めんどくさい。もう、ほんとイヤ。今度から、頼むなら、私じゃなくて、しぐまか、ロードにしてよ。あんたと一緒にいると、シューリがキレて鬱陶しいから」


「俺がお前と一緒にいるからって、なんで、あいつがキレんだよ。どういう理屈だ」


「……」


「なんだよ」


「別に」


「あ、あと、ちなみに、しぐまとロードに頼むのはありえねぇ。あいつら、どっちも、転生させるの下手だから。ロードの場合は、普通に才能がないし、しぐまの場合は、わざと、おかしな転生のさせかたするだろ。消去法で、お前しかいないんだよ。他に神の知り合いいないし」


「ソンキーがいるじゃない。あいつに頼めばいい。武に特化しているとはいえ、ソンキーも、一応、シューリ系統の天才なんだから。その気になれば、出来ると思う」


「あいつにモノを頼みたくない。俺は、田中トウシの次に、あいつが嫌いなんだ。なぜなら、イケメンで天才だから。天才のイケメンは、みんな死ねばいい」


「……なんで、こんなのが、神の王になれたんだろ……コスモゾーン、ほんと、バグってる。てか、あんたが転生技能を身に着ければいいじゃない。あんたがその気になれば出来るでしょ」


「無理。お前と同じレベルでやれるようになるには、たぶん、100億年ぐらい修行するひつようがある」


「アポロギスを殺した時の半分の努力でいいってことね。なら、余裕じゃない」


「余裕じゃねぇだろ。余裕じゃねぇだろ。大事なことだから、二回も言っちゃったよ。……てか、俺の分のソウルゲートは、もう開かない。あれ、たしか、一回限りだろ? 知らんけど」


「あんた、色々と、反則みたいな存在だから、あと100回ぐらい開くんじゃない?」


「開かれても困るんだよなぁ……もう二度と、あそこに行きたくない。ほんと、しんどいんだよ、あそこ」


「200億年を、100回ぐらい積んだら、リミットを超えることもできるんじゃない? 神の王ともあろう男が、いつまでも存在値17兆じゃカッコつかないでしょ。さっさと限界を超えて、すべての命と調和とかしてくれない? そうすれば、ザコの転生とか、そんな面倒くさいことしなくてよくなるし」


「めちゃくちゃ難易度高いことを、サラっと口にしてくれますねぇ、超苺さん」


「じゃあ、私、帰るから。もう二度と、呼ばないでね」


「はは、それは無理ですよ、超苺さん」


「なにワロてんねん」


「これから先も、ずっと、ことあるたびに頼らせてもらいますぜ、姉さん。あなたは本当に優秀だから、本当にいろいろと便利……いえ、頼りになります」


「ウザ。殺していい? 本当に。ガチで」


「落ち着けよ、姉さん。無粋な殺気なんてしまえよ。俺とお前の仲じゃねぇか。穏便にいこうぜ、何事も。俺たちはファミリーでありフレンド。そうだろ?」


「あんたとの間に、特別な関係なんか一個もないんだけど。家族でもなければ、友達でもない。あんたとそんな関係を築くくらいなら死んだ方がまし」


「いやぁ、清々しい! あっぱれ! そんなあなただから、俺も、その手の冗談が言えるんだ。もちろん、俺達はファミリーでも、フレンドでもないとも。単なるビジネスパートナー。それでいい。それがいい」


「あんたとそんな関係を築くくらいなら死んだ方がまし」


「……いや、ビジネスパートナーぐらいは許容してくれや。俺がお前を、心底頼りにしているのはガチなんだぜ。お前は本当にめちゃくちゃ優秀だ。才能という点で言えば、俺が0点なのに対し、お前は1000点以上ある」


「それって自慢? 自分は才能0だけど、神の王になりましたっていう自慢? ウザすぎて吐き気がすごいんだけど」


「違うな。『あなたは才能0なんかじゃないよ。才能1ぐらいはあると思う』という優しい言葉が欲しかっただけの、『慰めカツアゲ』だ。俺に同情しろ。そして、俺の心に寄り添って、優しい言葉をなげかけろ。俺が自己卑下するたびに『そんなことないよ』と否定しろ。それが俺の望みだ」


「めんどくさ」


 一度、心底鬱陶しそうな顔をしてから、

 超苺は、


「てか、マジで、ほんと、私じゃなくて、他の神に頼ってよ。あんたのお願いだったら、さすがに、あの『クソ自己中馬鹿シューリ』でも聞いてくれるんじゃない?」


「聞いてくれるわけねぇだろ。シューリの自己中をナメんなよ。あいつに頼むぐらいだったら、まだ、しぐまに頼んだ方がマシだ。しぐまに頼んだ方がマシって、よっぽどだぞ。シューリ、マジで、どんだけ性格終わってんだよ。ふざけんな」


「私じゃなくて、シューリに直接言ってくれる?」


「言えるわけねぇだろ、ナメんなよ。つぅか、お前は、基本的前提が理解できていない。俺は、あいつに言えない文句を、お前に言うことで発散しているんだ。それなのに、直接言えとか、何言ってんだ。『下っ端同士でしか言えない社長に対する愚痴』を『社長に直接言え』って言われているようなもんだぞ。バカか。頭わるすぎだろ。直接言ったら怒られてしんどいだろうが! まったく! 反省しろ!」


「……キライぃ……あんたのこと、ほんと、キライぃ……ちゃんと言っておくけど、私の場合は、シューリと違って、心底から、マジで、嫌いだから、あんたのこと」


「ナメんなよ。お前だけじゃなく、他の神全員から嫌われているのが、このセンエースさんだ。その中でも、特に俺を嫌っているのが噂のシューリさんだ。『どういう分野においても、シューリと一緒にされたくない』というお前の気持ちも分からないではないが、しかし、俺を嫌っているという点において、お前は、シューリと同類だ! はははっ! ざまぁみろ! 悔しかったから、俺を好きになってみろ! できるもんならなぁ! 俺を好きになるくらいだったら、ゴキブリ100匹丸のみする方がまだマシだろう!」


「そんな哀しい事、自分で言っていて、むなしくならない?」


「俺はもう、そんなステージにいないんだよ。嫌われ界の遥かなる高みから、下民どもを見下している。ははは、みろ、人も神も、ゴミのようだ。まあ、一番のゴミはここにいる俺様なんだけどな。AHAHAHAHAHA」


「……」


「じゃ、というわけで、また、何かあったらお願いするんで、その時は、おなしゃす、コンビニエンス姉さん」


「……ウザァ……」


 現世の人間に対しては、色々と甘いが、

 神界の神に対しては、かなり態度が雑な神。

 それが、ゼノリカの頂点、神帝陛下センエースの実態。

 あまりにも態度と性根がヒドすぎて、神界の深層にいる神のほぼ全員から、普通に嫌われているという悲しい変態。


 ソウルゲートで200億年を積んだという過程や、

 アポロギスを倒したという実績は、

 神の視点でも、フラットに見れば、とんでもない偉業なのだが、

 しかし、センと、あと、シューリが、嫌われすぎているせいで、

 『200億年を積んだ』という件に関しては『さすがにバグりすぎていてキモすぎ』という評価に落ち着き、『アポロギスを倒した』という件に関しては『てめぇのせいで、【嫌われ者界のファンタジスタ(シューリ)】が生き残っちまったじゃねぇか、責任取れ』と文句を言われる始末。


「さて……それじゃあ、今日は何をしようか……んー……」


 センは、腕を組んで、天を仰ぎ、


「カドヒトとして、ゼノリカに嫌がらせするか……」


 ボソっとそうつぶやいた彼に、

 まだギリ帰っていなかった超苺が、


「あんた、よく、そんだけ、現世に執着できるわね。もう意味がわからない」


「……執着なんてしてねぇよ。ただ遊んでいるだけだ。で、いつか飽きたら、シューリに丸投げする。そんだけの話だよ」


「その、ムダに偽悪的にふるまうの、もしかして、カッコいいと思ってる? 吐くほどダサいんだけど。あと、シューリは、たぶん、あんたの跡は継いでくれないと思う」


「馬鹿野郎。それは、さすがに、シューリをナメすぎだ。あいつは、神界深層最高の女神として、俺と契約を交わしたんだ。あいつは、確かに、性格が終わっているが、しかし、女神として交わした約束を破るほど終わっちゃいねぇよ」


「……いや、性格が終わっているとか、終わっていないとかの問題じゃなくて――」


 と、センの勘違いに対して、一瞬だけ、訂正を入れようとした超苺だったが、

 しかし、


「あー……まあ、いいや」


 途中で、死ぬほどメンドくさくなった超苺。

 心の中で、


(センが死んだら、シューリはたぶん、自殺するだろうから、ゼノリカのあとをつぐことはない……って言ったところで、このバカは、アホな顔して否定するだけだろうから、もう、相手にしないでおこう、こんな変態)


 そうつぶやくだけにとどめると、


「じゃあ、私、マジで帰るから。できたら、マジで、ほんと、もう二度と、連絡してこないで」


「オッケー。じゃあ、来週あたり、また電話するわ」


「……」


「そんな嬉しそうな顔するなよ。神の王に頼りにされて誇らしいのは分かるが、もっと、深層の女神らしく、ドンと構えていろよ。まあ、分かるけどね? この俺様の右腕になれるという幸福は、もう、ほんと、たまらんだろうから。うんうん。くるしゅうない。ちこうよれ。ホッペにチューしてやろう」


 超苺は、軽蔑の眼差しからの、


「ぺっ」


 ツバを吐き捨てるというコンボを繰り出してから、

 神界の深層に帰っていった。


 独りになった神の王は、

 アクビを一つはさんでから、


「さて……と……じゃあ、行こうか」


 カドヒト・イッツガイへの擬態をかまして、

 ゼノリカへのいやがらせを開始しようとした。


 ――と、その時、

 通信の魔法が発動する。

 通信魔法を使ってきた相手は、『リフレクションに所属しているカドヒトの部下』の一人である『カムロイ』。

 設立当時から、ずっと、リフレクション幹部として、『聖典教』と、そして、『ゼノリカの不完全性』に対して異を唱え続けている気骨のある男。


「代表、ウラジミー・リーが殺された。どうにかするって言っていたじゃねぇか。確かにリーは過ちを犯した。けど殺されるのは行き過ぎだ」


 挨拶もなく、いきなり文句を叫ぶカムロイ。

 この無粋な熱量を、カドヒトは気に入っている。


「心配するな、カムロイ、リーの件は対処した」


「え、どうやって……だって確実に死んでいたぞ」


「俺にしか出来ない無数の裏技ってもんが、山ほどあってね。詳細は省くが、とにかく問題はない。すべて、完璧に対処した。リーにとって完璧かどうかは知らんけど、少なくとも、俺にとっては完璧な結末だ。俺が俺のためにやったことなんだから、俺が完璧だと思っているなら、なんの問題もない」


「……代表が言うんなら、ただの嘘じゃないんだろう。信じるぞ」


「別に信じなくてもいいけど嘘はついてねぇ。それより、ダーミアンの裁判はどうなった?」


 ダーミアンも、リーと同じく、『己の弱さ』に負けてしまった者。

 根本から腐っているとは言えないが、ゼノリカが求める『魂の高潔さ』には届かなかった者。

 『まっすぐに前を向き続けられる者』は少ない。

 『命』は、そこまで強くない。


「……ダーミアンも死刑だ。一週間後に首を飛ばされる。ゼノリカはやりすぎだ。倫理を履き違えている。代表、俺はもう我慢の限界だ。殴り込みに行かせてもらう。そしてゼノリカのお偉方を、ハジからぶん殴って説教してやるんだ。『本当に大事なものを見失うな』ってな」


「落ち着け、カムロイ。お前は間違っていないが、ゼノリカも間違っているわけじゃない」


「いいや、間違っているね! ゼノリカは、第二~第九アルファの全てを統べる世界政府として、一から十まで『完全』でなくてはならないのに、ゼノリカは、その義務を放棄しているようにしか思えない! 組織として腐ってしまわないように注意を払うのは正しいが、しかし、ゼノリカは、『イタズラに、歪みを忌避しているだけ』のように見える! 疑心暗鬼に震えているだけだ! 理想の統治組織としては失格の心構え! リーやダーミアンを殺す必要なんてない! 『どうしようもない悪の心をもったバカが、いやがらせ目的で、ゼノリカを穢そうとした』――みたいな、そういう事象なら、確かに、毅然とした態度で臨むべきだろうけれど、極限状態でミスを犯した者まで断罪する必要はない! あいつらがおかしくなるぐらい、そんな極限状態まで追い込んだのは、ゼノリカなんだから、それで断罪なんてしたら、まるで、当たり屋じゃないか! 状況や背景を精査して、諸々ジックリと鑑みた上での恩赦は絶対にあってしかるべきだ。そうでなければ、裁判ってものをする必要性すらなくなる! 結果が決まっているおざなりの公開処刑なんて、そんなもん、悪以外のなんだってんだ! ゼノリカは間違っている! 『完全』じゃない! 完全ではない組織を、俺は世界政府として認めない!」


「お前の視点も必要だ。完全であることを求め続ける監視の目も必要だ。だから、お前も間違ってはいない。もっと言えば、この世の中、『完全に間違っていること』の方が少ない。さらにもっと言うのであれば、『正しいこと』など存在しない。正しいことが存在しないから、間違いもない」


「……」


「この世に、『純粋な善』は存在しない。それが、永くを生きてきて、多くを経験して、その結果、俺が得た真理の一つ。もしかしたら、この視点も間違っているかもしれないが、しかし、そんなことは知ったことか。俺が俺のために出した結論だ。誰にも文句は言わせない。だから、カムロイ。お前の激情にも、俺は文句を言わない。しかし、お前が所属している組織の長として、俺は、お前が、ゼノリカから断罪される可能性を殺さないといけない。これは、俺の責務……『お前が所属する組織の代表』としての『責任』の問題だ。だから、殴り込みにはいかせない。どうしても行きたいなら、俺を殺してからにしろ」


「……」


「不完全な命が、それでも、完全であろうと無茶をすれば、『間違っていない道』以外を選択しなければいけないこともある。狂気的に、病的なほど、高潔であろうとする――その潔癖は、確かに、『完全な思想』ではないが、しかし、その歪みは、『完全ではない命が完全を求めた代償』だと、俺は思う。全員で払っていく必要がある借金だ。その覚悟を持たない者が、ゼノリカにだけ文句を言うのは筋違いだ……と、俺なんかは思う。あくまでも俺の意見でしかないが」


「……代表が言っていることは理解できるさ。代表は間違ったことを言っていない。この世に本物の善なんか存在しない……わかっているさ……あんたとずっと過ごしてきた俺だから……ちゃんと理解している……けど……けど……やっぱり、間違っているだろう。殺す必要はないじゃないか……代表が言っていることは、ちゃんと、全部理解できているが……しかし、『首をはねる必要なんかない』って俺の意見は、間違っていないだろう。……リーも、ダーミアンも頑張っていたんだ……ダーミアンの方は、記録を見ただけだが、リーには実際に助けられたことがある。話をしたこともある……あいつはいいやつだった。亡くなった母の自慢になりたいんだと、必死になって頑張っていた。そんなやつを、追い詰めて、壊して……ミスをしたら斬首……ふざけるな……ふざけるな……っ」


「ゼノリカがリーを追い詰めたかどうかで言えば、議論の余地があるとは思うが……間違いなく言えることは、斬首は確かにありえねぇ。ただ、『笑って許すわけにはいかない問題』であることも事実だと、俺は思う。弱さに負けて、味方を殺そうとした。それは事実であり、あいつが受け入れなければいけない十字架だ。己の弱さに負けた者を見過ごすことは、ゼノリカの信念的に不可能。社会的な問題ってのは、こういう時におこる。リアルの問題ってのは、たいがい、勧善懲悪じゃ処理できねぇ。悪いヤツがいて、そいつを裁いて、それで終了……そんな簡単な問題は、もはや問題といわねぇ。いつだって、どうするのが正しいのか分からねぇ。それが正解を持たないリアルの大問題」


「……」


「だから、俺は、折衷案を出した。折衷案と呼べるかどうかは微妙なところだが、一応、丸くなる落としどころは見つけたつもりだ。……緩衝材になるのが俺の役目だからな。俺は、こう見えて、責任感だけはそこそこ強いし、任された仕事だけはキッチリとこなすタイプなんだ」


「……」


「信じなくてもいいが、事実として受け入れろ、リーの方は、問題なく対処した。ダーミアンの方も手を打っている。他の案件も問題ない。すべてうまくいく。なぜなら、ここには俺がいるから」


「……」


「今はまだ、ゼノリカも青いが、いずれ、そういった尖りも整っていくだろう。今まき起こっている問題の大半は、『アホのセンエース』がトップをしているからだ。あのアホがトップをやめて、超天才のシューリが跡を継げば、ゼノリカは、ちゃんと完全になる。リフレクションも必要なくなる。それまでの辛抱だ」


「……しゅーり? ……それって、五聖の酒神終理殿下のこと?」


「そうだ。無能のセンエースが退陣したあとは、シューリがゼノリカのトップに立つ」


「酒神殿下は、ゼノリカの天上の中でも特に気性が激しい怪物だって聞いたんだけど?」


「その認識は間違っていない。確かに性格はゴミだ。完全に終わっている。だが、性格以外は完璧だ。性根以外は、『命の上に立つ者』として完璧」


「……いや、代表……ゼノリカのトップに立つ者は、性格が一番大事だろ……最も高潔な者でないと、ゼノリカの王にふさわしくない」


「今の王であるセンエースは、性根もスペックも全部最悪だ。統率力無し、風格なし、カリスマなし、その上で、陰キャのクソボッチで、頭が悪く、性根の悪さで言えば、シューリとどっこいどっこい。よくもまあ、こんなもんを、王にしているもんだ。ゼノリカは頭が悪い。センエースが王をしている状況よりも、シューリが上に立った方が絶対にマシ。少なくとも、今よりはマシになる。絶対に」


「……代表って、本当に、センエースが嫌いなんだな……」


「リフレクションにいるメンバーは全員そうだろう?」


「好きか嫌いかで言えば、確かに、好きじゃない概念だけど、それは、『完全でなければいけない世界政府が、お飾りの偶像を、無意味に崇拝している』という状況に対しての嫌悪感であって、センエースというキャラクターそのものに対して、嫌悪感は抱いていないよ」


「俺は、センエースそのものが普通に嫌いだ。なぜなら、バカだから。あと、顔面偏差値48で才能がないから。あと、限界を超えられないから。もう、普通に死ねばいいと思っている。いつまで生きてんだ、と怒鳴りつけてやりたい」


「……いや、『死ねばいい』も何も……センエースなんて、そもそも存在しない偶像で――」


 と、持論を展開しようとするカムロイ。

 だが、センは、その意見をぶったぎり、


「さて、と……それじゃあ、そろそろ、仕事をはじめるとするか。まずは、ダーミアンの件を処理するところからだな。カムロイ、手伝え」


「……」


 色々と言いたいことはあったが、

 しかし、カドヒトの命令を受けたカムロイは、


「……了解、代表」


 すなおに従った。

 カムロイにとって、カドヒトの命令は絶対。

 センエースは信じていないが、カドヒトのことは盲目的に信じている。


 と、そこで、カドヒトが、カムロイの目を見て、


「もう言うまでもないと思うが、一応、最後に言っておく。ゼノリカに対して無茶はするな。最低限のラインを超えてしまえば、ゼノリカも、本気で、リフレクションを処理しようとしてしまう。そうなることだけは避けろ。リフレクションが、俺とお前だけの組織だったら、自爆覚悟の突貫も、最悪のケースの一つとして想定の範囲に入れておくが、リフレクションも、それなりに大きな組織になってしまった。『当たって砕けろ』を社訓にはできない」


「……ゼノリカの闇を……全部、代表が、問題なく、どうにかしてくれるって……その話が、本当だというであれば……自分の感情は抑えるよ。あんたについていくと決めた……自分自身の決断と心中する」


「いい心構えだ。それでいい」


「……センエースではなく、代表がゼノリカの王だったらよかったのに……それなら、こんな無駄な怒りを抱えることなく、まっすぐに生きていられたのに……」


「面白いジョークだな、カムロイ。俺が王になったら、ゼノリカは終わりだ」


 ブラックなジョークでお茶を濁す。

 最後の最後までファントムトーク。


 小粋に瀟洒に、そして、ちょっぴり滑稽に、

 舞い散る閃光は、今日も平常運転でしたとさ、

 めでたし、めでたし。


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