30話 危ないから下がってろ。面倒は、俺が全部片づける。
30話 危ないから下がってろ。面倒は、俺が全部片づける。
「あのキモいタワーの調査と破壊は俺がやる。理由は、経験値を横取りされたくないから。世界のものは俺のもの。俺のものも俺のもの」
「陛下がヨグとの闘いに赴かれる際にも申し上げましたが、陛下をカナリアにする気はございません。あの謎のタワーの危険性に関しては、我々が調査してまいりますので、陛下は下がってくださいますようお願い申し上げます」
カンツは理解している。
センエースの言葉の真意。
目の前にいる『命の王』が、家族に甘いということ。
そして、その甘さや優しさを直線的な言葉にはしないということ。
その前提を踏まえた上で、先ほどの言葉を翻訳すると、
『危ないから下がってろ。面倒は、俺が全部片づける』。
だが、『センエースの命』を、『ゼノリカ全員の命』よりも数段階上に置いているカンツにとって、その命令は、とてもじゃないが聞いちゃいられないものだった。
カンツはイエスマンではない。
主が間違ったことを言った時は、頑として修正を加える。
カンツの頑固さはハンパではなく、ゼノリカの天上に属する天上の神々でも、この頑なさをどういかすることは不可能。
――だが、しかし、こういう、ガチでヤバそうな匂いがしている時のセンさんの頑固さは、カンツを置き去りにしていた。
センは、カンツの胸倉を掴んで、
「命令だ。上司として、命の王として、正式に命令する。お前を含めたゼノリカ全員に待機命令を下す。命令違反は極刑に処す」
「ワシにとって、あなた様の命令を聞くことは至福。しかし、あなた様の命令を聞く義務は、あなた様の命を守る責務よりは遥かに下にある」
「最優先すべきはゼノリカ。俺の命令は絶対だが、俺の命を最優先にすべきではない。頭が死んでも、誰かが跡を継げばいい。具体的には、シューリとか、トウシとかに任せればいい。私が死んでも代わりはいるもの。というわけで、お前らは、家にかえってのんびりミルクでも飲んでいやがれ」
「ありえません。あなた様の代わりは存在しない」
「俺の上位互換は山ほどいる。どう考えても、シューリやトウシに任せた方がうまくいく。こんなこと言いたくないけど、トウシあたりに任せれば、ゼノリカは、今の10倍質が上がる。というか、俺に頭をやらせんな。向いてない。俺は、王将ってガラじゃない。香車あたりが無難。これを機会に、トップの変更・解任を要求する」
「ありえません」
「お前、俺の要求、全却下だな! ほぼすべての要求が、検討すらされず、秒でひねりつぶされるんですけど! 新入社員のプロジェクト案でも、もうちょい、上は考えてくれるもんだぜ? ねぇ、ガチで聞きたいんだけど、俺、本当に王様?! 何一つ、意見が通りませんけど?!」
「あなた様は紛れもなく王。我ら全ての頂点に君臨する無上の光。ゆえに、カナリア役を押し付けるなど、絶対にありえません」
頑として譲らない。
どちらも頑固。
無意味なにらみ合いが、1分ほど経過したところで、
「……ん……おっと、もうおかわりか……くるとは思っていたが……ずいぶんと、早ぇな」
奇妙なタワーのてっぺんから、
また、バグが湧いて出てきた。




