12話 世界中の、すべての生命が、センエースを知るべきである。
12話 世界中の、すべての生命が、センエースを知るべきである。
「……大問題だぁあああああああ!!!」
と、叫びながら、演壇を拳で、
ドゴォオオンッッ!
と、コナゴナにしていくカンツ。
「これまで、ずっと放置されていたことが信じられんほどの超絶大問題である!! ありえん! ありえぇええええええええんっっ!!!!!」
野獣のように、血走った目で、天を仰ぎ、そう叫んでいるカンツ。
そんな彼も、直前の闘い――『ウムルとの死闘』で、『センエースの尊さ』を知るまでは、神を信じていない派だった。
むしろ、神という概念を忌避していたのがカンツという男の、かつての基本スタイル。
天下や民衆のような『弱い命』が、『神』を『心のよりどころ』にすることに関しては『仕方がないことだろう』と受け入れている部分もなくはなかったものの、
『ゼノリカの天上に属するほどの者が、存在しない神にすがるなど、言語道断』と、『ゼノリカ上層部で神を信仰している者』を軽蔑し、時には『存在しない神を過剰に敬愛するのはやめんかい』と説教をかましていたレベル。
しかし、センエースの愛に触れ、その尊さに感銘を受けた今、カンツは、ゼノリカの中でも、1・2を争う狂信者となった。
あの闘いで、センエースの愛に触れた者は、みな、一律に、『狂信』の属性を得たわけだが、しかし、カンツのソレは格が違った。
もともと、カンツは、信念に生きる正義の化身。
つまりは、なによりも『ヒーロー』に焦がれていた者。
決して、『憧れていた』というわけではなく、『絶望を前にしても、決して折れることなく、弱い命のために舞い続けるヒーロー』という概念に対して、『胸をかきむしりたくなるほどの、別格な想い』を胸に抱いていたのである。
『ヒーローは存在しない。ゆえに、自分が、ソレにならねばならんのだ』という強い想い。
その想いは、センエースを知ったことで、大きな変化を得た。
ヒーローは存在していた。
ただ、愚かしくも、その事実を知らなかっただけ。
この極まった愚かさは、決して許されるものではない。
『世界中の、すべての生命が、センエースを知るべきである』――それが、カンツの中に芽生えた、新たな想い。
「自分達の王が、存在するかどうかすら、正しく認識していないなど、ありえん!! 第二~第九アルファは、アホの集まりか?! 知性のカケラもない獣の集団か?!」
いつもは、『がはははは』と豪快に笑いながら、自分の背中を魅せつけ、弱い命の盾であり矛であり続けることを絶対の信条としているカンツだが、『センエースの布教』について熱く語っている現在の彼は、その信条と向き合う余裕がない。
彼が、いつも『がははは』と豪快に笑っているのは、決して『楽しいから』ではない。
どんな絶望を前にしても、『この程度は、鼻で笑える程度の問題でしかない』と豪快に笑ってみせる胆力こそが、ヒーローの資質の一つであると考えていたからこそ。
今も、その信条に変わりはないし、戦場や鉄火場においては、豪快に笑ってみせる構えだが、しかし、今は、その必要性がない。
必要性がないのに、バカみたいに笑ってみせるほど、彼は狂っていない。
粗野な狂人という評価を受けることも多いカンツだが、
その実、彼は、いつも冷静でクレバー。
「自分達の神を正しく知らないなど大罪!! 王の尊さを、正しく、民衆に理解させなければいけない! それこそが、最優先事項であり、それ以外のことは、いったん、どうでもいい!!」
冷静で……クレバー……
まあ……うん。




