5話 報酬タイム。
5話 報酬タイム。
「おまけに、目つきが悪くて、髪質が最悪で――」
「もういい、もういい。お前が俺を嫌っていることは十分わかった。その辺にしておけ。あまりにも俺が不憫だ。見ろ、今にも泣きそうじゃないか。かわいそうに」
優しい時間が、ゆったりと流れていく。
シューリがあまりにも、シッカリとエンジンをふかしているので、
あまり、『優しい』という印象は抱けないが、
しかし、今が、『絶望を乗り越えた後の報酬タイム』であることを疑う余地はなかった。
シューリの炸裂に対して、センは、いつだって、安らぎを感じている。
過剰に持ち上げられたり、おだてられたり、ヨイショされたり、必要以上に祭り上げられるのは趣味じゃない。
そうじゃない。
そうではないのだ。
センが望んでいるのは、そんなものじゃない。
いつだって、どんな時だって、
狂おしいほどに、かきむしりたくなるほどに、切望しているものは――そうじゃなくて……もっと、こう……なんていうか……
「極めて頭が悪くて、マザコンで、察しが悪くて、ビビリで、泣き虫で、ヘタレで、根性なしで――」
「もういいと言うとろうが! あと、この俺様を、よく根性なし扱いできたな! あんまり自分で言いたくないけど、根性だけは、宇宙一の自信があるんですけど?!」
「そうでちゅね。バ○タのスピードと同じぐらい、宇宙一でちゅね」
「お前の中で、俺の根性に対する評価がいかに低いかがよくわかったよ」
しんどそうにそうつぶやいて溜息をつくセンに、
シューリは、まだまだ目を光らせて、
「あと――」
「マジでもういい!」
★
シューリとの、『真剣での演舞』のような対話を経てから、
センは、アダムとミシャから、現状の世界について聞かされた。
真・第一アルファからの帰還後、
セン以外のゼノリカのメンツは早々に目覚めて、
すぐさま、『各々の仕事』を再開した。
センだけは、なかなか目覚めなかったが、
命にも体にも別状はなく、
呼吸も脈拍も血圧も体温も正常で、
しかし、明らかに体力だけが低下している状態であったため、
今は、『体を休ませるための半冬眠状態なのだろう』と判断し、
みな、『センの世話』を、アダム、ミシャ、シューリの最上位女神三柱に任せ、
『センが守りきった世界』を守るために、各々の仕事についた。
センの心配は、もちろんしているわけだが、しかし、
『自分たちがオロオロと心配したからといって、だから何になる?』
という問いに対する答えであるところの『無意味』が正確に理解できているし、
『自分たちが生き残っているのに、神だけが死ぬなどありえない』
という、絶対的な信頼もあった。
ゆえに、ゼノリカの神族たちは、もくもくと、一心不乱に、
『世界を守り、正常に稼働させる』という自分たちの仕事に没頭した。
――そんな中、センが目覚めたという速報は、文字通り『秒の勢い』で、ゼノリカの天上を駆け巡った。
その速報が駆け巡るまで、みな、『表面上』は『神は大丈夫だから心配ない』というスタンスでいたが、しかし、実際のところは、もちろん、不安で気が狂いそうだった。
己は神族の一員であるという強いプライドで、どうにか心を支えていたが、しかし、それも、ギリギリだった。
なんせ、神が死ねば、自分も死ぬのだ。
それは、システム的な話ではなく、感情論の話。
解除されているかどうかはどうでもいい。
自殺は禁止されているが、しったことじゃない。
センエースを正しく知る者は、センエースなしでは生きられない。
酒やギャンブルや薬なんかよりも、よっぽど依存性の高いよりどころ。
それが、センエース。
なんと罪深い神であることか――なんて、みんな、心の中で、毒づいたりもして。




