1話 違和感なんてないさ、違和感なんてうそさ。寝ぼけた人が見間違えたのさ。
1話 違和感なんてないさ、違和感なんてうそさ。寝ぼけた人が見間違えたのさ。
センが、感慨深げに、窓の外に広がる世界を眺めていると、
そこで、ガチャリと、扉の開く音が響いた。
音のした方に目線を向けてみると、
そこには、穏やかな顔をしているアダムが立っていた。
アダムは、センと視線が合うと、
妖艶に微笑み、
「やっと起きた。いままで、ずっと、戦いっぱなしで、疲れているのは分かるけど、さすがに寝過ぎよ、セン。あれ、もしかして、このまま起きないとか……みたいな感じで、ちょっと心配もしちゃったわ。そういう心配って、本当に心臓に悪いから、勘弁してよね」
非常にフランクな態度で、そんなことを言ってくる。
なので、センは、
「……?」
違和感に硬直する。
(ん? あれ? ……ん……ああ、いや、何もおかしくないか……)
だが、すぐに違和感は霧散していった。
まるで、夢の中のよう。
どんなに『おかしなこと』でも、
なぜか、受け入れてしまうという謎現象。
記憶の一部がマヒしているみたいに、
センは、目の前の違和感をスルーする。
夢ではない。
目の前で起こっている全ては、決して夢ではない。
理想の世界を手に入れた。
それが、嘘であってたまるか。
「ゼノリカの面々が、あなたの顔をみたがっているけれど……でも、シカトでいいと思うわ。あんな、クソの役にも立たない連中に配慮する必要なんてない。あなたは、『私たち』のことだけ考えていればいいの」
などと、フランクなまま、そう言いつつ、
アダムは、センの隣に近づいてきて、流れるように腕を組むと、
「改めて、言わせて、セン。あなたは本当にすごいわ。間違いなく、文句なく、世界で一番のヒーローよ」
と、最大級の賛辞をぶつけてくる。
そんな彼女に、センは、
「……んー……」
と、未だ拭いきれない違和感にさいなまれている。
すると、
アダムが、センの微妙な感じに気づいたようで、
「ん、どうかしたの、セン」
と、心配そうな顔で尋ねてきた。
「え、いや……何もない……何もないはず……ん……たぶん」
「何か心配事があるなら、隠さずに言って。助けてもらってばかりじゃなくて、私は、あなたと一緒に悩みたい。一緒に戦って、一緒に苦しんで、それで、もし死ぬとしても、一緒に死ぬ……そういう、本物の『パートナー』になりたい」
「……あ、はい……」
アダムの『本気の熱量』に気圧されて、
センの思考は停止する。
彼女の『本気』に対してだけは、なんの違和感も覚えなかった。
それも当然。
彼女の『感情』にも『言動の本質』にも嘘は微塵もない。
彼女の中にあるフラグメントは本物。
『調整』が加えられていたとしても、それは、『本質』にブーストがかかっているだけで、捻じ曲げられているわけではない。
――もっと言えば、これまでの方が異常ではあった。
ほつれが戻った。
彼女の本質は、むしろ、こっち。
ゆえに、センは決して夢を見ているわけではない。
ただ、少し『形』が変わっただけ。
もっと言えば、
――センの『理想』に近い形に調整されているだけ。
もっと、もっと、踏み込んで言えば、
より洗練された、というだけの話。




