9話 センエースはやべぇ。
9話 センエースはやべぇ。
ボコボコにされるセンエース。
必死になって磨き上げてきた力を、いいようにいなされる。
力技を、軽やかに吸収されて、跳ね返される。
嫌味なほど精緻に、柔よく剛を制される。
――今、センは、考えることをやめている。
『カミノ相手に考えても無駄だ』ということはよくわかっているから。
どんな細かい作戦をたてても、秒で完璧に読まれて、華麗に利用されてしまうから、獣になって無策の特攻をかます方が、まだ勝率が高いと判断した。
それでも、『完全な無我』や『忘我の境地』には至れないため、
カミノに、『エサ』をチラつかされると心が揺らぐ。
カミノが魅せたスキ――その『誘導』に、つい、くいついてしまう。
すると、『センが喰いつくタイミング』まで完全に読んでいるカミノは、
ヌルリと、手品みたいに、スキという悪手を好手に化けさせる。
その手品を、『一回だけのとっておき』としてではなく、
雑に頻発してきやがるものだから、
センの頭の中で『カミノの悪手』に対して疑心暗鬼が芽生える。
センの中に、どの程度の大きさで疑心暗鬼が産まれているか――それすら、デジタルに読んでしまうカミノ。
丁寧に、緻密に、カミノは、センの疑心暗鬼を利用する。
カミノは、あえて、見え見えの悪手を打ち、
センに『何か裏がある』と思わせて、
手を控えさせることで、
「今のは本当に悪手だったんだけどなぁ、残念」
本当の悪手を、急所への一手へと化けさせる。
それは、心を摘む一手。
――別格のジョーク。
遥かなる高みからの嘲笑。
ピエロを笑うピエロのロンド。
イキっているわけではなく、丹念にセンの心を削ろうとしている。
1000億年を自力で積んできたセンエースの気合いと覚悟は、人外の領域。
神すらドン引きする精神の異形。
『そんなド級のバカ野郎をどうにかしようと思えば、最良の手は、血肉を削ることではなく、心を溶かしきることである』――という、極めて合理的な判断を下したカミノ。
――そんな、カミノの『おそろしく慎重で折り目正しい対応』に対し、
センは、
「もう慣れてんだよ、テメェの神業にはぁあああああ!」
獣の咆哮でお返事を出す。
「今、てめぇ、俺の心を折ろうとしたなぁ! はっはぁあ! 浅いんだよ、テーブルゲームバカがぁ! 何をしても、どうあがいても、絶対に折れない殺意――そんな俺の狂気に溺れろ。サイコパスとしての歴史が違うってことを教えてやる」
カミノは、『神の一手』を放ち続けた。
センエースとの死闘を経て、カミノはどんどん磨かれていく。
眠っていた才能が――その、『史上最高と評しても何らおかしくない破格の才能』が、この戦いの中で、指数関数的勢いで目覚め散らかしていく。
なのに!
刈り取れない!
センエースの心だけは!
(……ダメだ……こいつ、何をしても折れない……)
カミノは理解した。
目の前の怪物は、確かに常軌を逸している。
1000億年がどうこうという数字に対し、『おそらく盛っているのだろう』と解釈していたカミノだったが、
(こいつなら、いけるかもしれない……これだけ異常なら……)
そこで、カミノは、改めて、未来を計算してみた。
(ヌルと、こいつ……どっちの方が上かな……)




