99話 俺ごときに何ができる?
99話 俺ごときに何ができる?
(その器が、俺にあるのか? 全部を守れるだけの力が……俺ごときにあるか?)
これまで、何も成し遂げられなかったがゆえの尻込み。
ニコトピアだけなら、どうにか救えるかもしれない、という算段はついている。
しかし、二兎を追い出したら、一兎も得られないという可能性だって芽生える。
(……できるか? 俺に……俺ごときに……)
逡巡の中で、
カミノは、
ちょっと前に、セイラから言われた言葉を思い出す。
『ぬしは、ちょっと自尊心が低すぎるのう。慎重派なのは結構じゃが、ぬしの場合、自分の価値を正しく理解していないだけのような気がしてならん。ぬしはスゴイ男じゃよ。ほかならぬこのワシが保証しよう。このワシに認められるとは、あっぱれ』
普通に愛してほしかった。
努力を認めてほしかった。
慰めてほしいと思った事はない。
そこまで、みっともなくはない。
欲しかったのは、等身大の評価。
「……俺の世界を守る。セイラの世界も守る。両方やらなくちゃならないってのが、神のつらいとこだな」
ネットカフェでバイトをしていた時代、
ムリヤリ取らされていた1時間の休憩中、
カミノは、ひたすらに、店内にある漫画を読んでいた。
7年間、ほぼ毎日、一時間、漫画を読み続ければ、それなりの読み手になる。
漫画の名ゼリフに脳が浸食されている、この感覚。
別に嫌いじゃない。
むしろ、魂の濃度が上がる。
「覚悟はいいか? 俺はできてる」
ガツンと自分に言い聞かせてみる。
他者に向けてつかう名ゼリフだが、
別に自分に向けたっていいだろう。
オフシャルの啖呵ならいざ知らず、
どうせただの『戯言』なのだから。
薄っぺらなチーターがキバをむく。
その無様さも、また、いとおかし。
はらり、ほろりと、舞うカゲロウ。
★
トーン共和国は完全に平定された。
『カミノ・キメラ』と『セイラ』のタッグはあまりに強烈すぎた。
たった一つの世界の、たった一つの国程度が、抗えるような相手ではなかった。
ボコボコにされたトーンは、カミノとセイラの足元に跪く。
「ありがとう、カミノ……おかげで、この国の膿をすべて摘出することができた。すべて、ぬしのおかげじゃ」
その賛辞に対し、
カミノは、
「……お前が頑張ったからだよ」
と、心からの言葉を述べた。
嘘偽りのない言葉。
事実、セイラは、必死になって、この国をよくするために奔走していた。
その真摯な姿をずっと見てきた。
だから、カミノは、本気で、セイラを尊敬している。
こういうやつが上に立つべきだと本気で想う。
「ありがとう、カミノ。……なあ、カミノ。世界は美しいのう」
真っ赤な夕日が、ゆっくりと沈んでいく光景を見つめながら、
セイラは、少し涙ぐんで、
「もちろん、トーンを平定して終わりではない。むしろ、ワシらの闘いはこれからじゃ。このまま、世界を平定していく。そうして、完璧な理想郷を実現する――」
最後まで、セリフを言えなかった。
「ぐふっ」
なぜなら、心臓を貫かれたから。
えげつないほどの魔力。
カミノに出会ってからの数か月で、セイラもかなり強くなったが、
しかし、『この魔力』に対抗するのは不可能だった。
――あまりにも、別格すぎたから。




