96話 おうおうにして、理解は嫌でも情になる。
96話 おうおうにして、理解は嫌でも情になる。
カミノとセイラは、何度も互いの武をぶつけあい、そして、高め合っていった。セイラはカミノの武の支えとなり、カミノもまた、セイラの武の支えとなる。カミノの『爆速すぎる才能開花の加速』を、セイラが、そのひたむきさと魂の美しさで丁寧に整えていく。そうして慎重に磨かれたカミノの武を手本として、セイラも大きく成長していく。
そんなことを繰り返していれば、いやでも、相手のことを理解していくもの。
深い理解は、情につながる。
どんなに『ブサイクで生意気でサイコなバカガキ』が相手でも、それが自分の育てた子供であるならば、『世界一カワイイ愛しの我が子』と思ってしまう。
人間とはそういうもの。
『時間と経験によって育まれた情』は重たい。
『ニコトピアの復活』しか興味がなかったカミノの中に変化が生じたのも仕方がない話。
(嬉しそうにしてんなぁ……)
ある程度の力をつけたカミノとセイラは、
サクっと国を獲りにいった。
その圧倒的な力を『正確な打点』として有効的に振り回して、
政敵をバッタバッタと、『正式な政』でなぎ倒し、
もちろん裏でも、頻繁に暗殺・カチコミを繰り返し、
腐敗し尽くしていた国を、正常に叩き直していく。
セイラと手を組んでからのカミノは、
『自由に思うがままに絶望を回収していく』のではなく、
セイラの要求通りに世界をボコボコにしていく。
カミノは、セイラの影に潜み、この世の影を狩る者となったのだ。
セイラだけでは難しかった国の浄化が、
カミノの加入で、サクサクと行えるようになった。
セイラとの鍛錬で存在値を上げていったカミノのデバッグコマンドは、精度とバリエーションが豊かになり、チート度がはるかに増した。
国が綺麗になるたびに、
セイラは、笑顔を浮かべて、カミノに礼をいった。
『ぬしのおかげで、この国は変わる。その先に、きっと、世界も変えられる。ぬしは、この世界で最も偉大なヒーローじゃな』
心の底からの賛辞を受けて、
何も思わないほど、カミノは壊れてはいなかった。
『ありがとう、カミノ。汚れ仕事を一身に背負い、世界のために舞うぬしは、この世で最も美しい』
サイコパスにも情はあった。
いや、本当は、サイコパスなんかじゃなかったのかもしれない。
状況的に『サイコパスのふりをするしかなかっただけ』なのやも。
『流石じゃな、カミノ。あっぱれな手腕。ぬしは嫌がるが、しかし、事実、ぬしは、世界一の天才じゃと思うぞ』
強制的に過剰なほど底上げされていたカミノの『父性』が、
セイラとの日々の中で、『正常な形』に整えられていく。
父性がなくなったわけではない。
今でも、カミノは、トコを娘として愛している。
ニコトピアを取り戻したいと本気で思っている。
『カミノ。ぬしの惜しみない献身は、世界で最も美しい。ぬしがいてくれてよかった。……会えてよかった』
ニコトピアしか支えがない時代の方が良かった。
そうであれば、悩まずに済んだから。
何も考えずに、サイコのふりをして、
イカれた狂気を、まき散らしていればよかった。
――けど、もう、その時代は終わってしまった。
だから、カミノは両手で頭を抱えてふさぎ込む。
(……どうすればいい……)
まるで人間みたいに、
『悩み』を心に抱く。




