94話 潔癖症のディストピアは勘弁。
94話 潔癖症のディストピアは勘弁。
「ゲロクズどもが淘汰された世界がワシの理想。ワシは、掃除をして部屋を綺麗にしたい。汚いのは嫌いじゃからな。部屋を綺麗な状態に保ちたい。それがワシの理想じゃよ。それを成すためには、絶対的で継続的な『力』が不可欠」
(こいつ、重度の綺麗好き……というよりも、ガチ精神病レベルの潔癖症か……合わないな……この手のタイプは、基本、歯止めがきかない……満足できる領域には永遠に届かない。いずれ、ハナクソをほじっただけでもゲロクズ認定して殺しだすんじゃね?)
などと、だいぶ大きな偏見が入った感想を抱くカミノ。
元職場――転生する前のバイト先に一人、やべぇ潔癖症がいたので、その印象がトレースされている模様。
(潔癖症のディストピアに興味はない……)
などと思っていると、セイラが、
「ヌシもワシと同じであろう?」
「ふぇ?」
「ぬしが殺してきた上級国民どもは、ワシが不愉快に思うゲロカスが大半。おそらく、ぬしが望む『たった一つの大事なもの』とは、ワシが望んでおる『理想郷』と同じ。そうじゃろう?」
と、目を輝かせて言われたカミノは、
「……いや、違いますけど」
「隠さんでいい。ワシにはわかっておる」
「いや、まあ、確かに、『俺にとっての理想郷』を求めているのは事実だけれども……」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
うんうん、と何度か頷いてから、
「目指す先が同じであるならば、バラバラに進むよりも、スクラムを組んで突撃すべき。というわけで、ワシと共に行こう。ともに世界をひっくり返すんじゃ」
などと、ずっと、キラキラした目をぶつけてくるセイラ。
その目を見たカミノは、
(なんというか……こいつ、希望に満ち溢れているな……力と才能があって、でかい野心と、叶えきれない夢があるから……)
『希望』の大きさは、希望を抱ける『環境』がどれだけ整っているかで決まると言っても過言ではない。
その点で言うと、セイラの環境は完璧だった。
『不満がたくさんある世界』を前にして、『そのしょうもない世界を変えられるだけの可能性』をもって生まれてきて、『変えたいという強い欲求』も持っている。
ある意味で、理想的な状況。
(こいつの希望が絶望に転換された時……そのエネルギーは、きっと計り知れない……)
悪魔のような顔で、地獄の未来を計算するカミノ。
(こいつの希望を、『民衆にとって分かりやすくメリットのあるもの』として提示することができれば……民衆に抱かせた希望をまるごと絶望に変えるということも可能……)
常人では想像もできないような悪魔的思考で、この世界を地獄の底に叩き落すプランを着々と練っていくカミノ。
彼は本物のサイコパス。
自分の世界だけが全ての狂人。
自分の理想郷が復活するなら、この世界にいきる者がどうなろうと、心底知ったこっちゃない。
(セイラはいいエサだ……こいつをうまく利用すれば、微妙な連中を狩り続けるよりも、よっぽどはやく、ニコトピアを復活させることができる……そんな気がする)




