93話 勘違いの沼は無限。
93話 勘違いの沼は無限。
――『イケメンが、イケメンを見ると、自分の優位性に危機感を抱く』というケースが稀にあるが、セイラは、カミノのことを『その手のナルシスト』と同じタイプだと誤解した。
セイラは、豊富な人生経験からくる優れた洞察眼を有しているが、
しかし、『心が読めるエスパー』ではない。誤解もする! 当然!
というか、『殺人鬼』に対しては、最初から一貫して誤解をしている!
彼女は、間違いなく優れた人間だが、
人間関係で完璧を実現できる人間など存在しない!
「おちょくってなどおらんが……まあいい。不快にさせることが目的ではない」
そう言って、カミノの要求を受け入れるセイラ。
心の中で、
(ワケの分からんところに怒りを感じるヤツじゃのう……もしかして、理想が高すぎるのか? それとも、常軌を逸した高みを見たことがあるとか? どこぞの高次神様と一戦やって、高みを知ってしまったがゆえに、自分程度の才能では話にならんと思っておる……とか?)
前提を誤解した上での推論は、さらなる誤解を生むだけ。
勘違いの沼は深くなるばかり。
セイラは、一呼吸おいてから、
「まずは、ワシの理想を聞いてほしい。一言で言えば、ワシは、この世界を浄化したい。カス以下のゲロクズどもが幅を利かせている現状をあまねく淘汰して、ワシにとっての理想の世界を実現させたい」
(――『やべぇ独裁者』みたいなこと言ってんなぁ。人を殺せるノートが出てくる漫画で、こういうイカれたことを言っているヤツを見たことがあるぞ。確か、主役だった気がする……)
『倫理的完成』という点での理想を夢見たことがないカミノにとって、
セイラの気持ちを汲み取ることは不可能。
凡人は哲人の夢を見ない。
(……まあ、でも『この世界を絶望のどん底に叩き落して、自分の世界を復活させたい』って願望よりは幾分かマシなんだろうけどなぁ……)
などと、どこか呑気な構えで、セイラの話を聞いているカミノ。
その清聴に畳みかけていくセイラ。
「理想を成すためには、ワシ一人だけではこころもとない。味方となる強者がいてくれると非常に助かる。この世界を浄化するため、ワシに力を貸してくれんか。どうじゃ?」
カミノは、セイラの話に段落がついたところで、
軽く、深呼吸を挟んでから、
「あんたの理想って? ゲロクズを排除して、それでどうしたいんだ?」
「ゲロクズどもが淘汰された世界がワシの理想。ワシは、掃除をして部屋を綺麗にしたい。汚いのは嫌いじゃからな。綺麗にしても、どうせ、また汚れるから、その時は、また掃除をして綺麗にする。そうやって、部屋を綺麗な状態に保ちたい。それがワシの理想じゃよ。それを成すためには、絶対的で継続的な『力』が不可欠」
(こいつ、重度の綺麗好き……というよりも、ガチ精神病レベルの潔癖症か……合わないな……俺とは見ている風景が違いすぎる)
カミノは、部屋の掃除を好んでするタイプではない。
ゴミ屋敷になってほしくはない、という普通の感覚はあるので、ある程度、ゴミがたまったら捨てるし、気が向いた時に、掃除機やコロコロをあてるぐらいはあるが、それぐらいが精々。
机の上が常にピカピカの状態でホコリが一つもない状態でないと気がすまない――という、潔癖症に分類される人間に対しては、普通に『やべぇな』と思っているレベル。




