92話 誤解、誤解、誤解っ!!
92話 誤解、誤解、誤解っ!!
(……最初から……なんとなく思っていたが……こいつ、ただの元主人公じゃなく……日本からの転生者か……)
キメラの場合は、元主人公の器というだけで、日本から転生していたわけではなかったが、彼女の場合は違う。
明らかに、日本からの転生者であり、かつ、カミノも同じであると気づいている。
「さて、もう『自己紹介(殺し合い)』は十分じゃろう。同郷どうし、同じ志を持ったものどうし、そろそろ、友好的に、建設的な話し合いをしようではないか」
そう言いながら、指をパチンと鳴らして、限定空間を解除した。
元の部屋に戻ると、
セイラは、椅子に腰かけて、
また、パチンと指を鳴らす。
すると、カミノの目の前に椅子が現れた。
カミノは、少しだけ逡巡してから、
「……んー」
と、感情が見えない『小さな唸り声』を出してから、
その椅子にドスンと腰をかけた。
そして、まっすぐに、セイラの目を見て、
「最初に言っておくが、俺は、自分が凡夫であることを、短い人生の中で死にたくなるほど痛感している。その苦痛、その地獄、その辛酸、その憂悶に、ことごとく打ちのめされて、『サクっと死ぬより億倍辛いゾンビ以下の状態』で生きてきた。だから、そこの部分を小バカにされたら、我慢ができない。たいていのことは我慢できるが、そこだけは我慢しきれる自信がない」
バチ切れの顔で睨みつける。
そして、みっともないことを宣言。
「二度と、俺の『才能のなさ』をおちょくるな」
明確なブサイクに対して『君、イケメンだねぇ』と煽る行為は大罪である。
けっして『ちょっとした冗談』ではすまされない原罪級ギルティ。
――ここで改めて言っておくと、
カミノは、自分の才能を徹底的に誤解している。
カミノは、『超々大器晩成型』であり、十代までは『才能という翼』に頼ることができず、『ジェットパックを背負った兎』たちと、『鉄球付きの三輪車』で渡り合ったカメ。
それだけのハンデ戦でありながら、しかし、『ギリギリプロにはなれなかった』というステージまでは届いた努力の天才。
この年齢になって、ようやく、開き始めている遅咲きのツボミ。
セイラは、そんなカミノの資質を、『優れた人生経験』で嗅ぎつけた。
『こいつは大物である』と、正確に判断できたセイラの審美眼は破格。
ここで問題になってくるのは、カミノが、自分の才能のなさに対して、激しい怒りすら感じているということにまでは、まだ気づけていないということ。
――そんなみっともない感情を垂れ流して生きているほど愚かではないので当然。
セイラが、闘い(対話)の中で汲み取れた、カミノの性格は『他者の才能に対して無駄に嫉妬を抱いてしまう気質』というだけであり、『自身に才能がないからこその怒り』だとは認識していない。
目の前で、才能の片鱗をまざまざと見せつけられているため、そのとんでもない才能をもった男が、『自分に才能がない』と思い込んでいるなどとは夢にも思わない。
――『イケメンが、イケメンを見ると、自分の優位性に危機感を抱く』というケースが稀にあるが、セイラは、カミノのことを『その手のナルシスト』と同じタイプだと誤解した。
セイラは、豊富な人生経験からくる優れた洞察眼を有しているが、
しかし、『心が読めるエスパー』ではない。
誤解もする!
当然!




