90話 この世で最も醜い嫉妬の炎。
90話 この世で最も醜い嫉妬の炎。
(これまでに、ワシがやってきた武は、たとえるなら『石斧を振り回す原始的なケンカ』……それに対し、こいつがやっておる武は、『未来兵器を使った戦争』……あまりにも『段階』が違いすぎる。この差を埋めなければ、永遠に、対話になどならん)
現状を正確に理解して、明確なゴールを定める。
欲しい未来は、地道に階段をのぼって掴み取る。
彼女なら、いつか届く。
なぜなら、休みなく二段飛ばしで上り続けるという覚悟があるから。
胸の中でメラメラと燃える闘志。
表ではいつだってクールに、けれど、裏側では熱く燃えている。
(……ん?)
闘いの中で、カミノは気づく。
セイラの動きに変化が生じていること。
(今のジャブ……回避しようと思えばできたはず……なんで、わざわざ受けた? 何かたくらんで――んっ……体が鈍く……これは……呪縛?!)
と、そこで、セイラは、ニっと笑い、
「ワシの専用マシンゴーレムの最大の特徴は、『受けたダメージを呪いに変える』という特性! いつもは、その特質を封じて、基礎スペックを上げる使い方をしておるが、今回は、そのまま使わせてもらう! ちなみに、『呪いの種類を自在に決められる』という汎用性の高さが売り! 今回の呪いは、『受けたダメージの分だけ呪縛をかける』!」
殴り合いではなく、特質を生かした戦闘にシフト。
さらに暴露をつむことで、呪いの通りを加速させる。
その上で、さらに、カミノが『最も面倒だ』と感じる手を無数に打ってくる。
ただ呪縛をバラまくだけではなく、
巧妙に呪いの種類を変えながら、
戦況を、己にとって有利な状況へと変えていく。
カミノは、ただやられているわけではなく、
丁寧に、すべての手に対して、しっかりと抵抗しているのだが、
(……くいつかれた? マジでか?! バラまいた『ブラフの虚石』に目もくれず……まっすぐに、俺の『実』だけを、ブッタ切りにきた……)
闘いの中で、セイラは、定石を学習していた。
積み重なった定石は、ハメ技を殺す。
『傾向』と『対策』。
反復による定石の血肉化。
学習能力。
その点において、セイラはカミノを超越している。
だから、ようやく、カミノは、セイラを、正しく理解する。
(……こいつ、『宇宙人(天才型)』だ。それも、俺が今まで見てきた中で……別格に破格の……っ!)
カミノは、『天才型の人間』を『宇宙人』と呼んで、『自分とは違う生き物』と認識する生き方をしている。
棋院には天才しかいない。
天才以外は淘汰される。
そういう世界で生きてきて、だから、天才を見てきた数は多い。
中には『こいつには絶対にかなわない』と、秒で心を砕いてくる枠外のキ〇ガイもいた。
セイラは、その中でも破格。
一段階上。
信じられないほどの器。
(こいつが、ちゃんと神闘を学べば、俺を遥かに超えていく……俺みたいな、結局、プロになることすらかなわなかった半端な欠陥品とは違う)
プロ試験ごときは『通過点とすら思っていない』という、イカれた連中と同類。
(腹が立つ……お前みたいな天才には……俺の苦労は分からないだろう……俺みたいな『半端な秀才(才能がないわけではないが天才ではない)』では、どんなに努力をしても超えられない壁……それを、オリンピックのハードル走ばりの勢いで超えまくっていく変態……)
ぐつぐつと、純粋な怒りが湧いてくる。
これは、嫉妬の炎。
とてつもなく醜い感情。
時に、最強の原動力にもなりうる情緒の結晶。
指示厨的な視点が霧散して、
明確な殺意でセイラをにらみつけるカミノ。
大人気ない――というよりも、もはや、まっすぐにガキ丸出しの憤怒で、
「汚物(天才)は消毒だぁあああ!」
布石として拡散しておいた『連鎖するエネルギー』が結集して、
濃厚な『一点集中型の死』が形成された。
一撃で対局(殺し合い)を終わらせにかかった神の一手。
そんな、えぐりとるような一撃に対し、
セイラは、
「定石との向き合い方がイーブンになれば……さすがに、『小賢しさ』でワシが負けることはありえん」




