86話 俺の人生を教えてやる。
86話 俺の人生を教えてやる。
(……神闘の真理の部分には、『碁の概念』をぶち込んである……俺に『プロになれる器』はなかったが、しかし、間違いなく『碁の才能』はあって、かつ、死ぬ気で努力してきた……つまり、それが、どういうことか……一言で言えば……『俺の碁の強さは、一般人の視点では、神レベル』ってことだよ)
カミノは、地獄の最果てとも呼べる『死線』で、もがき、あがき、苦しみ続けてきた。
――そんな自身の、研ぎ澄まされた絶望と悲壮感を、全て、『自身の魂に顕現させた神闘』に注ぎ込む。
(――『目ぇ血走ったプロの卵たち』と、人生をかけて、しのぎを削りあった。数えきれないほどの実戦で戦術を学んだ。無限の死活と手筋を浴びて、頭おかしくなるほど詰碁を繰り返し……学習して、復習して、薄い部分を洗い直して……魂と心と体にたたきこんで……『相手を殺すため』の思考の基礎と応用を磨き、『自分が生き残るため』の最適の作戦を組み立てる訓練を続けた)
――その経験を、盤面ではなく、体躯で活かすだけ。
体力の課題と問題点は破格のチートでカバー。
「知性の格闘技。それが、『神闘の真髄』……の一部。俺に扱える神闘は、一部の一部だが……それでも、現闘しか知らんヤツの視点では、とんでもない脅威だと思うね」
まだ『五目並べ』しかやったことない子供を、
むりやり『囲碁』の勝負に引きずり込むという大人気のなさ。
しかし、今は『命のやりとり』の領域。
だから、卑怯もクソもない。
死んだ方が悪い。
それが死線。
そんなフロントラインで命を削り、そして死んでしまった男に甘さはない。
「上エックス、下ビー、エルワイ、アールエー、モキュモキュ、フルモッキュ、G0001001」
拳を交わし合う、忙しい『流』の中で、
カミノは、デバッグコマンドを入力し、
「閃拳!!」
『碁打ちを目指して命を削ってきた』という経験値をぶち込んだ必殺技を決める。
局所的な『生き死に』をずっと模索し続けた人生。
その人生が、今、拳に宿る。
「ぐっっっ!!!!」
破格の衝撃とダメージを受けて、セイラは後方に吹っ飛んだ。
――カミノの閃拳込められているオーラと魔力量は正直微妙。
だが、クリティカル率と、クリティカルダメージ量が、ハンパではなかった。
破格の一撃を受け止めたセイラは、
(……なんじゃ? 今の一撃は……重さが異質……どういうチート……)
理解できない一撃に対し、
はじめて、カミノに対して、実質的な恐怖を抱いた。
先ほどまでは、『どうとでも対処できる』という余裕があったが、
今は、それが、わずかにゆらぐ。
カミノは、そんなセイラに対し、
「目が変わったな。今が『命のやり取りだ』って自覚が芽生えたか? じゃあ、ここからは、本格的な死闘だな……精緻なヨミが生きてくる。俺の手に対して、お前がどう動くか……定石の連鎖だけでは測れない無限のせめぎ合い……その領域でこそ、俺の資質が活きてくる……」
武を構えなおす。
だいぶお粗末ではあるものの、
しかし、その深部には、確かな重さを感じる武。
「行くぞ……俺の人生を教えてやる」




