79話 素敵な交渉。
79話 素敵な交渉。
「能ある鷹はツメを隠すもんじゃよ。手前の『上限』を、いたずらにひけらかすことになんの意味がある? 『低能のザコ』を演じ過ぎた場合、過剰にナメられて不利益を被る――といったケースもあるから、力を隠しすぎてもよくないが、それ以上に、本来の力を知られてしまう方が明らかに不利益」
本音と持論を交互に並べて、さらに、
「ぬしほど強大な力を持ったテロリストは、めったに産まれんが、しかし、決死の覚悟で自爆テロを行おうとするバカは、稀にわく。もしワシを殺そうと考えた者に、ワシに関する正確な情報を知られたら、『これだけやれば、確実に殺せる』というシッカリとした準備をさせてしまう……が、『カバノンより弱いぐらい』と誤認させておけば、準備の段階で怠慢を強制させることができる。他にも、強さを隠すことには無数に利点がある。というか、逆に、正確な情報を与えることにメリットがなさすぎるのう」
自分が、本来の力を隠している理由を丁寧に語るセイラ。
そんなセイラに、カミノはいぶかしげな目を向けて、
「……あんたが慎重に生きてきたってのはよぉくわかったよ。けど、じゃあ、なんで、今はフェイクオーラを解いている?」
現在、カミノは、プロパティアイで彼女の本質を看破しているが、
今のセイラの状態であれば、サードアイでも、十分に、彼女の『異常な大きさ』を見通すことは可能。
デジタルに数値を量ることは難しくとも、『カバノンよりもはるかに大きく、その潜在能力は、勇者や魔王にも匹敵する器である』――ということを見通すことは十分にできる。
「お察しの通り、ワシは非常に用心深い女でのう。他人の前で、フェイクオーラを解くことは滅多にない……しかし、パートナー候補が相手となれば、話は別じゃ」
「……パートナー候補……ずいぶんと特殊な言葉を使ってくれるねぇ……」
言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい覚悟を感じた。
セイラは、まっすぐな目で、
「ワシのものとなれ、稀代の殺人鬼よ。もし、ワシのものになると誓ってくれるのであれば、ワシの全てを、ぬしに捧げよう。ワシはぬしのものとなり、ぬしはワシのものとなる。どうじゃ、素敵な未来じゃと思わんか?」
「……いや、別に、素敵だとは思わないが……」
ダルそうにそう言ってから、
カミノは、アイテムボックスから、『まがまがしい剣』を取り出して、
「俺にとって大事なものは一つだけ。その『一つ』以外は全部どうでもいい。というわけで、これから、徹底的に拷問してから殺すから。できるだけ苦しんで死んでくれ。恨んでくれていいよ。呪ってくれてもいい。その全てを受け止める覚悟くらいはできているから」
「ふむ。なかなか話の通じんヤツじゃのう。まあいい。それならば、まずは、ぶつかりあってから、改めて話をするとしよう。――限定空間ランク23」
そう言いながら、セイラは、パチンと指を鳴らした。
すると、強固な空間魔法がセイラとロバンとカミノの三人を閉じ込める。
別に、拒絶したいようなものでもなかったので、カミノは、そのまま限定空間内に閉じ込められることを許容した。




