78話 重大な誤解。
78話 重大な誤解。
「いらんよ、護衛など。そんなものをつけとったら、交渉にならん。ワシは、かの殺人鬼とパートナー契約を結びたいと思っておるんじゃ。不快な思いをさせる気は一切ない」
深みのある老人口調でしゃべる美少女。
年齢は10歳と、破格に若く、見た目も相応だが、精神年齢だけは100近いという、ギャップがエゲつない少女。
「ようやくめぐってきたチャンス……必ずモノにする……」
血走った眼は、本気の覚悟の証。
ハンパではない。
いつだってそう。
『前世』の時からずっと、
セイラは『本気の覚悟』を、この国に――そして、すべての世界に示し続けた。
だからこそ、セイラは、破格の力を得ることができた。
しかし、まだ足りない。
力が。
――思うがままに、ワガママに、この世界の全てを完璧に統制するためには、
まだまだ『力』が足りない。
だから、望む。
噂の殺人鬼の力。
「……はやく来い……おそらく、ワシは……ぬしと『同じもの』を望んでおる。ワシはぬしの力になれるし、ぬしはワシの力になれる。ともに、この国を変えよう。ワシとぬしが手を組めば……この国を……世界を変えられる!」
最初に言っておくと、
セイラは、殺人鬼を誤解している。
噂の殺人鬼は『この国をよくするため』に、クソみたいな上級国民を粛清してまわっているのだろう――と、勘違いをしている。
殺人鬼は、『自分の世界を復活させる』という、極めて自己中心的な理由で、上級国民を殺しまくっているのだが、しかし、そんなこと、内情を知らずに推測できるはずがない。
★
その日、カミノは、運命の出会いを果たす。
『素晴らしい才能を持つ』と噂の上位上級国民『セイラ・アカナティス・インサイドギル』。
まだ、10歳という若さで、議員の最高ランクにまで上り詰めた稀代の麒麟児。
潜在能力で言えば、勇者や魔王に匹敵するのではないかともウワサされている美少女。
子供をいたぶる趣味などないカミノだが、
しかし、目的のためなら手段は択ばない。
『セイラを殺そう』と、彼女の屋敷に忍び込んだカミノは、
彼女から、思わぬ歓迎を受けた。
「ようやく来たか。待ちくたびれたぞい」
優雅な態度で椅子に腰かけ、
尊大な態度で、しかし、どこか真摯に、
彼女――セイラ・アカナティス・インサイドギルは、
殺人鬼カミノ・キメラを迎え入れた。
「待ち伏せされたか……しかし、護衛は一人だけか? ナメられたもんだな」
セイラの斜め後ろに立っているロバンをチラ見しながらそう言うと、
セイラは、
「彼女は、ただの見学じゃよ。どうしても、ことの顛末を見届けたいというのでのう。昔から過保護でいかん。ワシのことを子ども扱いしてくる厄介な女じゃ」
「……まだ10歳なんだから、普通に子供じゃねぇか」
「実年齢じゃと、100を超えとるよ」
「その冗談は聞き飽きた」
などと、殺人鬼カミノの前で、呑気な『いつものやりとり』をしてみせる二人。
そんな、異質なほどの冷静さを見せてくるセイラに対し、
カミノは、
「……存在値……『720』? 話に聞いていた強さとずいぶん違うな……」
プロパティアイで、彼女の『本質』を見通すと、
「……現国家主席のカバノンが560ぐらいで、あんたは、それより下だって聞いていたんだが……」
「能ある鷹はツメを隠すもんじゃよ。手前の『上限』を、いたずらにひけらかすことになんの意味がある? 『低能のザコ』を演じ過ぎた場合、過剰にナメられて不利益を被る――といったケースもあるから、力を隠しすぎてもよくないが、それ以上に、本来の力を知られてしまう方が明らかに不利益」




