76話 希望と絶望の差。
76話 希望と絶望の差。
庶民の中では、上級国民専門殺人鬼が希望になっていた。
――そんな、奇天烈な展開に、一番危機感を覚えていたのは、噂の殺人鬼本人。
(希望を与えてどうするんだよ……俺が振りまかないといけないのは絶望だろうが……)
などとつぶやきつつ、右手首に巻かれている絶望ウォッチの数値に目を向ける。
現在の進行度は3%。
すでに、上級国民数千人を殺しているが、進行度の進みはかなり遅い。
(1000人でクリアできるとは思っていなかったが、ここまで進みが遅いとも思っていなかったな……)
最初にキムロを殺した時に、『0,1パーセント』になったので、
存在値的に上位の人間を『百』や『千』の単位で殺していけば、
それなりにパーセンテージが上がっていくかも、
と、心のどこかでは、薄い期待を抱いていたのだが、
しかし、現実は、推測どおり、かなりしょっぱかった。
(これ、あと、どれだけの絶望をまき散らせばいいんだ? もう、いい加減、しんどいんだけど……)
良心の呵責などというカワイイ感情は存在しない。
ニコトピアを復活させるためなら、鬼にも修羅にも神にもなれるのがカミノの特質性。
だから、これは、単純な『疲労』。
作業量が、想像以上に多すぎた。
(……庶民が希望を抱いているから進みが遅い……とか、そういうんじゃないだろうな……)
などと、心の中でつぶやいてみたものの、
『そうではない』ということを、カミノは知っている。
すでに、絶望ウォッチの解析は済ませている。
この謎のデバイスは、『希望』や『慈愛』によってマイナスの補正がかかる、という悪魔的な仕様ではない。
完全解析ができたわけではないので、
『絶対に違う』とは言い切れないが、
基本構造から読み取る限り、
そういう系統のアイテムではないという推測は可能。
(……『希望』も、世界を復活させるエネルギーの一つではある……絶望と比べて、あまりにも質が悪いから、クソの役にも立たないのは事実だけど、マイナスになるものじゃない……)
パーセンテージの上昇度で言えば、
仮に絶望を『100』とした場合、
希望は、『0,000001』とか、そんなもの。
あまりに微量なので、稼ぐ必要性は皆無だが、
しかし、不純物扱いして取り除かなければいけないものでもない。
激烈に微小というだけで、マイナスではなく、一応、プラスではある。
そして、もう一つ言っておくと、
希望の値が大きければ大きいほど、
それが絶望に転換した時、
大きなエネルギーとなる。
何も持たない者を絶望させるよりも、
希望で一杯の者を絶望させた方が上昇率は遥かに上。
(庶民も殺しまくり、社会全体に恐怖を巻いて、希望を絶望に変えた方いいのは事実だが……『未来に対する不安が強くて、存在値が低い庶民』を殺すよりも、『能力が高くて、未来がセーフティーの希望であふれている上級国民』を徹底的に壊してから殺す方がはるかに効率的……)
だから、結局、カミノは、現状を放置した。
彼に足踏みしている余裕はない。
とにかく、さっさと、ニコトピアを復活させたい。




