69話 ラベンチャと紙野は紙一重。
69話 ラベンチャと紙野は紙一重。
「ぉごっ……ごほっ……も、もう……殺して……お願い……します……」
己の殺害を懇願するという、昨日までのラベンチャであれば、絶対にありえない境地。
そんな、異質な領域にまで、ほんの数分で引きずり込んだカミノは、
人間とは思えない冷徹で平坦で無垢な顔で、
「はははっ、なんでやねん」
と、渇いた笑い声をあげる。
楽しいからではない。
呆れたから――ともちょっと違う。
あえて言うなら、『ちょっと出来のいい漫才』を見た感じ。
爆笑するようなキラーシーンではなく、
クスっとくる『ちょっと滑稽なかけあい』を見た時のフワっとしたノリ。
「お前、なかなかおもろいやないか」
と、関西のノリで、ラベンチャのボケ(本気)を軽く処理してから、
「お前のお願いを、俺が聞くワケないだろう」
そう言い捨てると、
さらに、凄惨さを増した無垢すぎる暴力で、
ラベンチャの心身を、これでもかと破壊する。
最後には、もはや、『助けてくれ』とも『殺してくれ』とも言わなくなったラベンチャ。
そこまで達したところで、
「お前で回収できる絶望は、このあたりで終わりかな。出来れば、もう少し頑張ってほしかったけど、まあ、お前程度じゃ、この辺が限界か。しょっぱいねぇ」
と、本音の感想を口にすると、
「じゃあ、死んでいいよ」
許しを得た瞬間、ラベンチャの体は、真っ白な灰になった。
その灰を、一度、グリグリと、踏みにじってから、
「さて、それじゃあ、次はお前だな」
と、ウィーンの方に視線を向けるカミノ。
無垢な瞳を向けられたウィーンは、ビクっと体を震わせる。
ずっと、目の前で、イカれた拷問を見せつけられてきて、
それが、自分に降りかかってくると思った瞬間、
体の奥底から、膨大な絶望感が沸き上がる。
「た、頼む……やめてくれ……いやだ……」
みっともなくションベンを垂れ流すウィーン。
とても、10つ星冒険者とは思えない。
「俺は、ラベンチャと違って、非道なことは、そんなにしていないぞ! そりゃ、強盗とか、強姦とか、殺人とか、そういう、一般的な法にさわることを、多少はやったことがあるが、その程度だ!」
強盗や強姦や殺人を、『未成年の万引きぐらい』にしか思っていないウィーン。
これに関してはウィーンがイカれているのではなく、単純に、この世界における倫理観の問題。
ちょっと盗んだり、犯したり、殺したり……その程度は、ちょっと力をもっている者なら、誰だってやっていること。
それが、一般認識。
そんな、ある意味常識人であるウィーンの発言に対し、
カミノは、特に何も感じない。
『目の前の人間がどんな生き方をしているか』など興味がない。
どうでもいい。
「たのむ! 俺はラベンチャほどの悪人じゃない! 金もはらう! 拷問はやめろ! というか、命だけは助けてくれ!」
ブルブルと震えながら、許しを請う彼に、
カミノは、
「キメラの視点では違うだろうけれど、俺の視点では、お前もラベンチャも同じなんだよ」
そう言いながら、
まずは、ウィーンの腕を切り飛ばす。
「ぎゃぁあああ!」
「怨嗟も憤怒も関係ない。俺は俺のワガママで、お前をいたぶって殺すだけ。つまり、俺はラベンチャと同じってこと。ここまで言えば、もう全部、理解できるな? 懇願なんてするだけ無駄だってこと」




