67話 合体してよかった。
67話 合体してよかった。
自分が自分のままで、キメラの力を奪うことだけに成功。
この賭けに勝ったのは、紙野的に、かなり大きい。
「悪いな、キメラ……ほとんど、お前を『養分にしただけ』になってしまった……まあ、でも、お前の、家族に対する愛情みたいなものは、ちゃんと残っているよ。お前の想いは大事にしていくから、まあ、勘弁してくれ」
紙野は、キメラを奪い取ることに成功した。
確率としては半々だった。
逆に奪い取られる可能性もあった。
完全に半分ずつが混ざり合って、まったく別の人格が産まれる可能性もあった。
――けれど、紙野は、この『人格の奪い合い』という戦争に完全勝利した。
「一応、完全合体したわけだし……名前も、変えておくか……今日から俺は……」
数秒考えてから、
「カミノ・キメラ……で、いいか……正直、『そうぞう』より『キメラ』の方がカッコいいし。……まあ、これだと、なんか、極羅が、俺の家に婿養子になったみたいになった感じで、合体感はないけど……まあいいや」
どうでもいいことをつぶやいてから、
カミノは、ラベンチャに視線を向けて、
「さて、それじゃあ、恐怖のショーを再開しようか。キメラと完全合体したことで、さっきよりも、苛烈にお前をイジめていくことになったけど……まあ、その辺は全部、自業自得ってことで」
そう言いながら、カミノは、ラベンチャにゆっくりと近づいていく。
「く……くるな……」
根源的な、命の恐怖に震えるラベンチャ。
カミノとキメラの間に、何が起こったのか……その辺に対する詳細な理解には、もちろん届いていないわけだが、しかし、バカではないので、空気感で、なんとなくの状況を読み取るぐらいはできなくもない。
ラベンチャが読み取った『空気』とは、
『ここから、自分が、とことんなぶられる』という恐怖。
これまで、自分が、率先して、他人にしてきたことだから、
その恐怖が、具体的なシルエットをもって、
ラベンチャの心にのしかかってくる。
「や、やめろぉおお! くるなぁあああ!」
ラベンチャは、必死になって魔法を使う。
とにかく、カミノを近づかせないように、
必死になって遠距離の魔法を放ち続ける。
異次元砲を大量に使うと、すぐに魔力が枯渇してしまうので、
異次元砲以外の、相手の動きを止めたり遅くしたりする系の魔法を使う。
氷の魔法で動きを止めようとしてみたり、
風の魔法で歩みを鈍くしようとしてみたり、
けど、どれを使っても、カミノの歩みは止まらない。
目と鼻の先まで近づかれたところで、
ラベンチャは、
「死ねよぉおおおお!」
膨大なオーラを込めた拳で、カミノの顔面を殴りつけた。
ガツンッ!
と、拳に手ごたえが響き渡る。
明確なクリティカルヒット。
これで殺せない方がおかしいという一撃。
それを受けたカミノは、
普通に痛そうな顔はしているが、
「よーし……『存在値500近いヤツ』に殴られても、吹っ飛んだり、怯んだりしない程度には、耐久値が上がったぞ……ここまできたら、どうとでもなる。キメラと合体してよかった。もし、キメラがいなかったら、ここまでくるだけでも、とんでもない時間がかかっていただろうからな」




