66話 人格戦争の勝利者。
66話 人格戦争の勝利者。
「ウィーン! ここで、あのガキを確実に殺す! 援護しろぉ!」
ここから先は獣の時間。
ただ、必死になって、互いの命を喰らい合う時間。
「異次元砲ぉおおおおっ!」
紙野を、跡形も残らず消滅させようとしたラベンチャ。
しかし、紙野は、
「痛っつぁああああああああ!」
痛がるだけで、死には届いていない。
どこにも欠損はない。
感覚器に障害が出ているようにも見えない。
(くそがぁ! やっぱ、存在値500近いヤツの攻撃はエグいな……まずい……このままだと、下手したら、気絶する……)
本来であれば、とっくに死んでいるのだが、いまだ、気絶すらしていないという異常。
この辺は、魔法やデバッグコマンドどうこうではなく、純粋な『根性』の問題。
結局夢破れたが、彼は『棋士を目指していた男』である。
『その道を歩む地獄の総量』は、一般人に想像できるものではない。
もともと、彼の『根性』はかなりのもの。
そこに、今は、『我が子を守るため』という『親の狂気』が乗っている。
だから、紙野は、そう簡単には崩れない。
なかなか別格の根性で、この世界に狂気をバラまいている。
この世界からすれば、地獄みたいな話。
(やっぱ、合体するしかないか……イヤだなぁ……)
追加で、数秒、逡巡したものの、
しかし、紙野は、結局、
(……我が子のためなら……)
親の狂気だけで突き進む。
どんどん、狂っていく紙野。
もう止まらない。
紙野の人格は、もはや、もともとの紙野から逸脱している。
今の彼は、『子』のために暴れる獣でしかない。
『子供を産んだとたんに人格が変わる女性』というのは珍しくもない話だが、
その変貌を凌駕するほどの、『愛』の狂気に包まれている紙野。
もはや、誰にも止められない。
紙野は、さらに暴走を加速させていく。
「――『蒼は哀より出でて、愛より碧し』――」
その魔法は、かなりの異質。
本質を追及しようとすると、かなりの難易度を誇ってしまう、意味不明な魔法。
ただ一つ、言えることは、
この魔法を使ったことで、
――紙野とキメラの意識が統合されていったという事。
グチャグチャにかき混ぜられて、重なり合って、一つになっていく。
決して、自由になっているわけではない。
かといって、不自由になっているというわけでもなかった。
ただ、一つになっていく。
コーヒーとミルクの関係よりも歪で整合性の高い、
分子同士の不安定な衝突。
時間を追って加速する不規則。
人格が弾けて混ざる。
そして、一つになる。
残ったのは、お互いが隠し持っていた、わずかな本音。
自己主張の戦争が終結した時、
そこには、一人の化け物が立っていた。
――『彼』は、
「よっしゃぁああああ!」
歓喜を叫ぶ。
その理由は明白。
「ほぼ俺ぇ! 多少は混ざって濁ったが、ほぼ俺ぇ! 俺は紙野創蔵!! ニコトピアの復活だけを一途に求める愛の化身!」
自分が自分のままで、キメラの力を奪うことだけに成功。
この賭けに勝ったのは、紙野的に、かなり大きい。
「悪いな、キメラ……ほとんど、お前を『養分にしただけ』になってしまった……まあ、でも、お前の、家族に対する愛情みたいなものは、ちゃんと残っているよ。お前の想いは大事にしていくから、まあ、勘弁してくれ」




