62話 きめらのつばさ。
62話 きめらのつばさ。
「使わせてもらうぞ。対価は……そうだな……」
そこで、紙野は、ラベンチャに視線を向けて、
「……あいつを凄惨に殺してやるよ。とことん地獄を見せてやる。それと、プラス、そのツボの中で死んでいる二人も回収してやる。それでどうだ?」
問いかけると、
『彼』の『中心』は、
消えかけの光をまたたかせた。
合意を得た紙野は、ニっと微笑んで、
「オーケー。契約成立。それじゃあ、名前を聞いておこうか。お前は誰だ?」
尋ねると、
彼の中心は、紙野にささやく。
自分の名前は、『キメラ』であると。
紙野に名前を告げたとたん、
キメラの中心が、ゴウゴウと輝きだした。
まるで、『それまで強制的に抑えつけられていた全て』が解放されていくように。
秒で『象』を取り戻したキメラは、
「あ……ぁ……」
『自分』の『奥』に、『命が逆流していく』のを感じていた。
脳が、アツアツになっていく。
すべての血が、沸騰している。
抑え込まれていた分だけ強く。
どこまでも強く、遠く、深く。
膨れ上がっていくキメラを見て、
紙野はつぶやく。
「ぉお……こいつは、完全に、元主役だな。それも、かなりの大当たり。……ラッキィ」
『自分を取り戻したキメラ』は、際限なく膨らみ続ける。
その果てに、キメラは、殺された家族を回収し、自分の中にかくまうと、
そのまま、自身の形状を変化させていく。
これから先、彼は、紙野創蔵の力となる。
ゆえに、その力は、紙野の背後に結集して、
翼の形をとった。
「……『極羅の剣翼』か……いいねぇ。どこぞのロープレなら、一度おとずれた町に瞬間移動できそうなネーミングだ」
『無数の異形の翼』を寄せ集めたような、まとまりのない剣翼。
しかし、そのまとまりのなさが、キメラの持ち味――と言わんばかりに、まったくもって異なる資質を、まるで廃人のテトリスみたいに、とてもきれいに、隙間なく積み重ねていく。
「俺個人では、どれだけのデバッグコマンドを駆使しても、永遠に届かない翼……それを、こうもアッサリ入手できるとは……めちゃくちゃ運がいいねぇ」
ほくほく顔で、自身の幸運を喜んでから、
紙野は、
「さて、それじゃあ……対価を払って、契約を果たそうか」
そう言いながら、
背中で輝く剣翼の一本を抜き取る。
怒りの炎が灯った剣。
今のまま振るったら、出力が高すぎて、一瞬で消し炭にしてしまうため、
紙野は、どうにか、出力を抑えようと、
「どーどー」
茶化しているわけではなく、
本気で、どうにか、鎮めようと頑張っている紙野。
「落ち着け、キメラ。今の俺じゃあ、『フルのお前』をうまく扱えない。ある程度、抑えてくれないと、お前を使った俺の腕が吹っ飛ぶ」
いくつかの手法を用いて、ほとばしるエネルギーを抑え込む紙野。
その結果、どうにか、キメラの暴走を止めると、
「――『極羅の剣翼』のMAX出力を、自在に操れるようになれば、勇者や魔王も瞬殺できるようになるだろうな……」
未来を想って、ほくそ笑む。
「それだけの領域にまでたどり着ければ、こそこそと、カスを暗殺する必要はなくなる」
未来の輪郭がはっきりしてきた。
『極羅の剣翼』を入手できた幸運に、改めて感謝をする紙野。
偶然の幸運に過ぎないが、
しかし、それでも別にかまわない。
大事なことは、ニコトピアを復活させること。
そのための『手順』の中で、不確定の幸運が積み重なるのはむしろ僥倖。




