61話 政治に向いている者などいない。
61話 政治に向いている者などいない。
「――ああああああああああっ!」
『彼』は、絶死を積んで底上げした魔力とオーラの全てを両手にぶち込んで、
「異次元砲ぉおおおおおおおおおおっ!!」
最初で最後、人生最大の一撃。
この一撃を放って死ぬと覚悟した一手。
その火力は当然膨大。
同程度の存在値の敵なら蒸発確定。
――けれど、
「――異次元砲」
ラベンチャは、右手に魔力とオーラを綺麗に溜めてから、タイミングを見計らって解き放った。
ラベンチャの異次元砲と『彼』の異次元砲は、互いの間でぶつかり合い、数秒ほど、押し引きを繰り返したが、最後には、パチュンと、世界に溶けるような音を残してどちらも消失した。
相殺されたエネルギーの余韻だけが世界に残る。
すべての力を出しつくして真っ白になった『彼』と、
まだまだ余裕を残しているラベンチャ。
勝敗は火を見るより明らか。
ガクリと、膝から崩れ落ちた『彼』に、
ラベンチャは、
「くくく……さすがに手がしびれたよ。よかったじゃないか。最後の最後に、私の手を痺れさせることが出来て。冥途の土産としては、これ以上ないだろう?」
ラベンチャに人生をめちゃくちゃにされた『彼』は、
最愛の家族を心に想いながら、
「母さん……フワリ……ごめん……俺……なにも……できな――」
最後まで言い切ることなく、
そのまま完全なる生命の停止を迎えた。
その様を見たラベンチャは、
満面の笑顔で、
「どうだい、ウィーンくん。素晴らしい芸術だと思わないか? できれば、もう少し熟成させたかったが、青い果実も、それはそれで味がある」
「俺に芸術は分かりません。教養がないもんで」
「いかんな、ウィーンくん。君も、最高位冒険者。いずれ、上級議員になる者。教養ぐらいは身に着けておかんと」
「俺は、議員になる気はありませんよ。政治は向いていない」
「政治に向いている者など、この世におらんよ。選ばれたヤツが好き勝手なことをするだけの簡単なお仕事――それが政治家だ」
などと、真理を語り合う二人。
そんな二人の元に、
「……」
――紙野が降臨する。
それは必然。
絶対にゆるぎない、世界に刻まれた最低条件。
どこからともなく、音もなく、とつぜん現れた紙野に気づいた二人は、
即座に、臨戦態勢をとった。
ウィーンが、
「お前……確か、昼間に、カザミと一緒にいた……」
『ジェイズの荷物持ちだ』と気づいたウィーンは、
警戒心を少しだけ緩めて、
「そんなところで何をしている? というか、どうやって現れた?」
普通に疑問を投げかけるが、
紙野は、ウィーンの言葉をシカトして、
「……これ、使えるな……」
真っ白になった死体を見下ろしながら、
ボソっと、
「なかなかの潜在能力……絶死のアリア・ギアスでも引き出しきれない複雑な深み……こいつ、もしかして、プライマルメモリの因子か……ただの因子ではなく、主役級を張っていた可能性がある……」
などと言いながら、
真っ白になった『彼』の『中心』を引き上げていく。
「使わせてもらうぞ。対価は……そうだな……」
そこで、紙野は、ラベンチャに視線を向けて、
「……あいつを凄惨に殺してやるよ。とことん地獄を見せてやる。それと、プラス、そのツボの中で死んでいる二人も回収してやる。それでどうだ?」




