57話 強烈なマウントをかましてくる先輩冒険者。
57話 強烈なマウントをかましてくる先輩冒険者。
「上級国民が、バタバタとやられているのに、そんなに強くねぇのか……暗殺特化型か?」
「ああ、そんな感じだった。油断している闇夜で背後を取られたら、俺やあんたでも、殺される可能性は十分にある」
「厄介だな。ちなみに、どんなツラだった?」
「仮面をかぶっていたし、ぶかぶかのロングコートで体を隠していたから、男か女かすら分からん」
「なんだよ、クソの役にもたたねぇな」
「……わるかったな」
と、サックリ情報を交わし終えたあとで、
その屈強な冒険者は、紙野に視線を向けて、
「で、このヒョロいのはなんだ?」
「荷物持ち。強くはないが、かなり高位のアイテムボックスが使えるから雇った。色々と、雑用も任せている」
「おいおい、カザミさんよぉ……この俺と同じ『10つ星冒険者様』ともあろう者が、こんな、カスみたいなのを雇うとか……もっと、品格ってものを大事にしてくれよなぁ。メンツ、尊厳、体面、沽券、矜持……そういう『外側』も大事にしてこそ、10つ星冒険者だ。お前らはそういうところが分かってねぇ。これだから、最近の若い奴はダメなんだ」
強烈な先輩風をふかしてくるウィーノ。
嫌がらせで嫌味を言っているのではなく、
それなりにまじめに、苦言を呈している。
先輩マウントを取りつつも、『下の面倒をみてやっている』という気持ちがなくもない。
そういう、どこにでもいる厄介な先輩。
『余計なおせっかい』を『親切』だと勘違いしているタイプの、いわゆる一つの老害。
「俺達のような10つ星冒険者は、みんなの憧れのまと。いわば、ヒーローだ。ヒーローにはヒーローにふさわしい体裁というものがある。心意気や実質的な力だけではなく、身なりもそうだ。一挙手一投足に気をつけてこそ、10つ星冒険者としての――」
ぺらぺら、ダラダラと、長時間におよぶ自己陶酔型の説教をかましてくるウィーノ。
『相手のために言ってやっている』と自分では思っているのだが、
実際のところは、『マウントを取るのが気持ちいい』というだけ。
自覚して、嫌味でやっているなら、まだかわいげもあるが、
彼のように『勘違いしているというパターン』は、非常に面倒で腹立たしい。
辟易した顔をしているカザミとマイ。
そんなチームメイトの顔と、うれしげに説教を続けているウィーノの顔を、紙野は、交互に見比べてから、
(この手のクソは、どこにでもいるな……『自分はいいことをしている』と本気で思っている迷惑なだけのカス……なんで、そんなにも愚劣になれるのか、俺には、まったく理解できない……)
これまでに務めてきたバイト先を思い出しながら、
紙野は、タメ息をつきつつ、天を仰ぐ。
「わかったな、カザミ。……おっと、もうこんな時間か。まだまだ言い足りないが、今日のところはこの辺にしておいてやる。これから、ラベンチャ議員の護衛任務があるんでなぁ。あの人、普段、テロリストは許さないとか、偉そうなことを言っているくせに、殺人鬼は怖いらしい。おかしな話だよな。ま、こっちは金さえ払ってくれればなんでもいいんだが」




