50話 火事場の馬鹿力と友情パワーで盛り上がっているところ悪いけど。
50話 火事場の馬鹿力と友情パワーで盛り上がっているところ悪いけど。
「だぁぁあありゃああああああああああっっ!!」
「カザミ、行っけぇえええええ!」
「カザミ、頼む! あの殺人鬼を殺してくれぇえ!」
仲間の応援に背中を押され、さらに加速していくカザミ。
おそろしく愚直な一手。
チームの希望を背負った、人生最大の一撃。
そんな重たい一手を受け止めた紙野は、
「……火事場の馬鹿力と友情パワーで盛り上がっているところ悪いけど、存在値200前後じゃ、どんだけ頑張っても意味ないから」
冷めた口調で、そうつぶやいて、
「上エックス、下ビー、エルワイ、アールエー、モキュモキュ、フルモッキュ、0000029」
デバッグコマンドを入力してから、
「……呪縛ランク12」
魔法をもろにくらったカザミは、
膝から崩れ落ちて、ピクピクと痙攣する。
「ぐっ……う、動かねぇ……マイ……解呪を……」
相手を動けなくする『呪縛』の魔法は、使い手が多いので、これまで、何度も受けたことがある。
ゆえに、対処方法は理解している。
マイは、すぐさま、カザミにかけられた呪縛を解こうと魔法を使うが、
「……な、なにこれ……なんで、こんなに……」
冷や汗があふれた。
紙野の魔法は、解呪に対する耐性が鬼のように強い。
メインアタッカーのカザミが転がったままでは勝機がゼロなので、
マイは必死になって、呪縛を解こうとするのだが、
しかし、そんなマイに、紙野は、
「解呪に対する耐性と、神経伝達の阻害の二つにブッパした呪縛が、結局のところ、一番強いんだよね。その代わり、消費魔力量がだいぶ増えたし、発動までの時間が延長したし、使用する際に精神負荷がかかってしんどいし、暴露を積む必要性も出てきたりするんだけど……まあ、でも、そのぐらいなら、全然、我慢できる範囲内」
などと、流暢に暴露を積んでから、
マイにも、
「呪縛ランク12」
呪縛の魔法をかけて、その場に転がす。
これで、あとは、イチジョーただ一人。
追い込まれたイチジョーは、
「う……ぐぅうう……」
歯ぎしりしながら、
「くそぉおおお!」
『いくら攻撃してもビクともしない壁』の『破壊』は諦めて、
紙野に向かって特攻を決め込んだ。
なんの計算もない一手。
イチジョーは、比較的頭がいい。
だから、現状が『詰み』なのは重々承知している。
だからこそ、無策な特攻。
……正直、もう、ちょっと諦めている。
しかし、仲間の命もかかっているので『完全に諦めること』は出来ない。
だからこその無謀な暴走。
イチジョーの特攻は、ちゃんと紙野に届く。
紙野は、決して強くない。
ダメージは与えている。
傷は与えている。
なのに、
なんで、
「なんで、死なないんだぁあああ!」
謎の不死身で理不尽を押し付けてくる紙野に、
イチジョーは、心からの怒りをぶつけていく。
絶望感に溢れた表情を見せるイチジョーに、
紙野は、
「なかなか、いい絶望だった。助かる」
などと、サイコなことを口走ってから、
「呪縛ランク12」
イチジョーを魔法で拘束して転がす。