49話 カザミが人生史上最も輝く瞬間?
49話 カザミが人生史上最も輝く瞬間?
「マイ! 落ち着いてくれ! 大丈夫だ! な、なんとかするから!」
先ほど言った通り『なんとか出来る気はしていない』のだが、
しかし、それをそのまま口に出したら、マイがもっと壊れてしまうと思ったので、
『なんとかしてみせる』と嘘をつくイチジョー。
この超危機的状況下において、
カザミは、特に何も考えず、
「くそったれぇ! 死ねよぉお! なんで、てめぇ、死なねぇんだよぉおお!」
無邪気に、紙野と殺し合っていた。
細かいことはイチジョーとマイに任せて、自分は、脳筋全開で、ただ暴れ続ける――それが、カザミのいつものスタンス。
力任せに、暴力的に、粗野に、けれど、ほんのちょっとだけ小粋に。
それが、カザミのスタイル。
「これで、どうだぁあああああっ!」
魔力とオーラを『これでもか』と注ぎ込んだハンマーを、思いっきり、紙野の頭頂部へと振り下ろす。
存在値の差を考えれば、踏まれたカエルみたいに、ペシャンコになってもおかしくない。
しかし、紙野は、普通にピンピンしていた。
大きな損傷は受けていて、血だらけのズタボロだが、
しかし、死の気配は一切感じさせない。
「こいつ……マジの不死身か?」
さすがに怖くなってきたカザミ。
そんな彼をずっとサポートしていたマイが、
「ちょっと待って! 怖い! え、なにこれ?! どういう悪夢?! まさか、本当に、このまま、ジワジワと、消耗させられて死ぬの?! いやぁああああ!」
恐怖心で思考力と言語能力が鈍る。
現状のような、じっとりと鈍く『真綿で首をしめられている恐怖』の方が、人の心を蝕んでいく割合は多かったりする。
『巨大隕石が頭上に降ってくる』といった感じの、『激烈でどうしようもない天災』の場合、どこかで『これはもうダメかもわからんね』と、諦めもつけられるのだが、この状況は、ある意味で、一番しんどい。
「死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 私は……私は、絶対に、元の世界に帰るんだぁあ!」
未来に対する恐怖という『しんどさ』は、
許容量を超えた時、往々にして『覚悟』へと変わる。
情緒不安定と言えばそれまでだが、
しかし『それだけではない炎』が、
いま、確かに、マイの中で灯った。
「カザミぃ! もっと本気で殴って! 私が、あなたの全てを引き出すから! 前世も含めた、あなたの人生で一番の全力を見せてぇえええ!!」
叫びながら、
マイは、魔力を充満させて、
カザミの火力を底上げするための補助魔法をかけまくる。
カザミの今までの人生の中で、今が、間違いなく、一番パワーがある瞬間。
その万能感に酔いしれながら、
「行けるぜ、マイ! これならぁあああああ!」
特に理由はないのだが、『ハンマーでの殴打』をメインに据えたカザミは、
とことんパワー重視で、紙野を叩き潰そうと飛びあがる。
「だぁぁあありゃああああああああああっっ!!」
「カザミ、行っけぇえええええ!」
「カザミ、頼む! あの殺人鬼を殺してくれぇえ!」
仲間の応援に背中を押され、さらに加速していくカザミ。