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48話 いつも、事件は、会議室ではなく、現場で起こっている。


 48話 いつも、事件は、会議室ではなく、現場で起こっている。


(やばい、やばい、やばい、やばい、やばい!!)


 普通に、パニックになるイチジョー。

 長年の異世界生活で、それなりに、根性は据わってきたが、しかし、命の危機を感じざるをえない『本物の極限状態』に陥ったことで、根本的なメンタルの『凡庸さ』が浮き彫りになってくる。


 ――ただ、


「ジョー、まだか! あと、どのぐらいで壊せる?!」


 カザミの『確認』が耳に飛び込んできたことで、

 無限連鎖しそうだったパニックに歯止めがかかった。


 この困難に立ち向かっているのが『自分一人だけ』だったら、

 おそらく、このまま、パニックの奥深くまで溺れ落ちていただろう。


 だが、イチジョーは、一人ではない。

 今は、チームで動いている。

 幼いころから、ずっと、孤児院で一緒に育ち、

 ずっと、ずっと、助け合ってきた仲間がいる。

 だから、


「うぉおおおおおっ!!」


 腹の底から声を出して、

 バカみたいに耐久力が高い『限定空間の壁』に攻撃を繰り返す。


(俺たちは……成り上がるんだ……っ……3人で、上級国民になって……幸せに……生きていくんだよぉお!)


 必死に、

 全力で、

 頑張って、

 どうにか、


 空間魔法をブチ殺そうとするが、



(ぐぅううう……っっ……か……硬すぎる……っ……どうすればいいんだ、こんなもの……っ!)



 仲間がいようが、

 心が支えられようが、

 夢があろうが、信念があろうが、


 しかし、だからといって、


 『実力以上の力を発揮できるか』と言えば、

 それとこれとは関係ない。

 奇跡の友情パワーだけで人生大逆転を果たせるほど、

 この世界は、甘くない。


 苦戦しているイチジョーに、マイが、


「ジョー、なにしてるの?! もしかして、無理そうなの?!」


 焦った感じで声をかけた。

 イチジョーは、歯をギリギリと軋ませながら、


「が、頑張っているけれど……か、硬すぎるんだ! こ、壊せる気が……しない……っ」


 今の発言は、『弱音』ではなく、ただの状況報告。

 イチジョーの心はまだ折れていない。

 自分以外の命も背負っているという現状が、折れることを許さない。

 しかし、心を保っていようがいまいが、

 『現状を打破するには実力が足らない』という現実は変わらない。


 そして、『弱音ではなく、現状報告』――という認識なのは、イチジョーの方だけで、

 マイの耳には『届かない者の弱音』にしか聞こえなかった。

 だから、マイは、悲痛な面持ちで、


「……い、いやだ! 死にたくないっ!」


 奥歯をかみしめながら、

 半パニックになる。


 完全に錯乱しているわけではない。

 ちゃんと闘いながらも、情緒が不安定になって顔が青くなっている感じ。


 そんな彼女に、イチジョーが、


「マイ! 落ち着いてくれ! 大丈夫だ! な、なんとかするから!」


 先ほど言った通り『なんとか出来る気はしていない』のだが、

 しかし、それをそのまま口に出したら、マイがもっと壊れてしまうと思ったので、

 『なんとかしてみせる』と嘘をつくイチジョー。


 これが、人間関係の厄介なところ。

 正確な情報だけでやりとりをした方が『間違い』は少なく済む――ということぐらい『理性の上』だけならば、十分に分かっているのだけれど、しかし、『現場』では、なかなかそうもいかないのが人間関係のつね


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