34話 死んでしまうとは、なさけない。
34話 死んでしまうとは、なさけない。
「想像しろ、スルス。お前の娘は、これから、身も心もズタズタに引き裂かれる。まずは、私がとことん遊ぶ。飽きたら、ホアノスに売る。ホアノスには殺さないように頼んでおく。とことん壊していく。女が、どこまで壊れるのか、それを貴様の娘で実験する。想像しろ、スルス。そして、絶望するがいい。それがエネルギーとなって世界を回すんだ。どうだ? 素晴らしいだろう? お前が苦しめば苦しむほど、世界は美しい円を描く。はは、はははははは、ははははははははははっ!」
心底楽しそうに笑いながら、
スルスの顔面を殴りつけていく。
決して殺しはしない。
彼女にも、地獄を知ってもらう必要がある。
もっと、もっと、苦しんでもらう。
簡単に死なせてしまっては何も面白くない。
苦しんで、苦しんで、苦しんで、それでも生きてもらう。
その絶望は世界の糧になる。
(まあ、本音を言えば、世界が回ろうがどうしようが、どうでもいいがな)
クリミアは黒く微笑む。
彼に使命感などない。
ただ、命で遊んでいるだけ。
(私の欲求を満たせるのであれば、それでいい。何をしてもいいというのを世界に認められているという、この優越感……ああ……素晴らしい……)
クリミアは、世界に感謝する。
自分を選んでくれたこと。
自分の全てを許してくれていること。
その全てに感謝する。
「おねがい……します……娘だけは……私は……なんでも……しますから……」
顔面グチャグチャの血だらけで、意識朦朧となりながらも、
スルスは、必死になって慈悲を請う。
それしか出来ないから。
母親として、自分に出来ることを精一杯やっている。
そんな彼女の口の中に、
クリミアは、右手を押し込んで、
「さすがに、聞き飽きた。うるさい」
そう言いながら、彼女の歯をくだいた。
なんの躊躇もなく、
当たり前のように、
バキっと、
「きゃぁああああ!!」
激痛に暴れまわるスルスに、クリミアは、
「うるさいと言っている」
理不尽なことを言いつつ、
まだ、歯を砕こうとした、
その時、
「お母さんから、離れろぉおおお!」
背後から、
赤いオーラに包まれた『ナイフを持った少女』が、襲い掛かってきた。
クリミアの首を刈り取ろうと、
全力の殺意をクリミアにぶつける少女。
彼女は、スルスの娘『セーナ』。
彼女は、クリミアの魔法で拘束されていたのだが、
しかし、怒りが限界に達した結果、
彼女は、絶死のアリア・ギアスを積むことを決意し、
限界を超えた力で、拘束を突破することに成功した。
母親を愛している彼女にとって、
目の前の惨劇は、地獄以外の何物でもない。
セーナは、後先考えずに、
母親を救うために、全力で、クリミアを殺そうとした。
――けれど、当然、
「絶死のアリア・ギアスを積んだか……ちっ……つまらないな……」
セーナの存在値は、平民の中ではマシな方だが、
しかし、『平民の中ではマシ』という程度のカスが絶死を積んだところで、
クリミアをどうにかできるわけがない。
セーナの特攻を、余裕で回避する。
その流れのまま足をひっかけ、セーナをこかしたクリミアは、
彼女の首を掴み上げて、
「なぜ、スルスを殺さなかったと思う? お前に生きる原動力を与えようとしたからだ。お前を生かすのも、また、スルスに自殺をさせないため。お前らは、互いが互いを醜く生き残らせるための鎖だった……なのに……勝手に死ぬとは何事か」