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32話 悪意の循環という免罪符。



 32話 悪意の循環という免罪符。


 基本的に、『上位の上級国民』は、国から『完璧な自由』を許されている。

 ――だから、今日も、

 上級国民『ズンダ・クリミア』は、自由に、気ままに、

 『平民』をオモチャにして遊んでいる。



「クリミア様!!」



 一人の中年女性が、必死の形相で喉をからしている。


 ここは、『ズンダ・クリミア』の屋敷。

 汚い金で磨き抜かれた趣味の悪い豪邸。


 汚い身なりの中年女性は、クリミアの足元で、土下座をしながら、


「お願いいたします! どうか! どうか、慈悲を!」


 慈悲を請う彼女に対し、

 クリミアは、愉悦の表情を浮かべている。

 自分に許された権利を堪能している顔。


「どうか、娘だけは! 私は何でもいたします! どうなってもかまいません! ですので、どうか!! どうかぁ!!!」


「家族が大事なら、『悪いこと』をしなければよかった。暗殺に強盗。ひどいものだ。……スルス。貴様がやってきたことは許されるものではない」


「……ぐっ……」


 正論を言われて、スルスは黙るしかない。

 しかし、スルスはクリミアの犬であり、

 これまでに行ってきた犯罪行為は、すべて、クリミアの命令を受けてのもの。


 だから、本当なら『お前の命令でやったんだろうが!』と叫びながら、クリミアの顔面を鈍器で叩き割ってやりたいと思っている。

 しかし、出来ない。


 クリミアは、国の中枢たる議員――つまりは、超上位の上級国民なので、当然のように、国から守られている。

 仮に国の保護がなくとも、超上級国民の地位につけるだけの存在値を誇っているので、仮に、ここで、スルスが、キレて襲い掛かったとしても秒で殺される。


 だから、這いつくばって慈悲を請うしかない。

 せめて、家族だけは許してほしいと願う。

 それなりに正義感が強いスルスが、

 クリミアみたいなクズの言いなりになって、

 命令通りに犯罪行為を繰り返したのは、

 すべて、大事な娘のため。


 『この子だけは守りたい』という願いだけで、彼女は必死に生きてきた。


「クリミア様! 私の罪は私が背負います! どうか、私に! 私だけに!」


「……ふ、ふふふ……」


 ふいに、クリミアは、笑みをこぼした。

 我慢できずにこぼれた笑い声に、

 スルスは、不快感をどうにか押し殺しながら、


「な、なにがおかしいのでしょうか?」


 そう尋ねると、

 クリミアは、残虐な笑みを浮かべて、


「私は何をしても許される。私はバカではない。だから、自分がしていることは理解している。前世でも、私は貴様をイジメていた。貴様は選ばれていないから、その記憶すらないだろうが」


「……は?」


 何を言われているのか分からないという顔をする彼女に、

 クリミアは、


「私は何をしても許される。なぜだと思う? スルス」


「……じょ、上級国民様だから……です」


「ちがうさ、スルス。私が……世界に選ばれているからだ」


「?」


 何を言っているのかさっぱり分からないという顔をしている彼女に、

 クリミアは、とうとうと、


「国がどうこうなどという、そんな小さな枠には収まらない。私は、『世界のために、自由に悪意をまき散らしてもかまわない』という許しを、世界から、正式に与えられている」




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