29話 世界の意志に対する疑念。
29話 世界の意志に対する疑念。
デバッグコマンドは『なんでもあり』――に見えるが、紙野自身が言っていたとおり、現状では『ほぼ』なんでもありという状態に過ぎず、けっこう制限が多い。
例えば、
「……携帯ドラゴンだけ奪えない……なんでだ……」
本来、デバッグコマンドに不可能はない。
製作者が世界を調律するための力に制限など必要ない。
――だが、今の紙野には出来ないことが多すぎた。
「こんな状態じゃあ、トコを守り切れるか分からない……」
一度、無残に殺されたことで、過保護が暴走している。
彼女を、もう二度と傷つけさせないために、
紙野は、その脳みそをフル回転させて、
未知を既知にしようと努力する。
「ログを調べれば、多少は見えてくるかも……」
世界の履歴を調べていく。
ログを調べるというのも、本来であれば、かなり難しいこと。
どのぐらい難しいかと言えば、『田中家』の頭脳がなければ厳しいレベル。
だが、『やり方』を知っている紙野にとっては、
のぞき見するだけなら造作もない。
デバッグコマンドを使い、世界を解析した結果、
「……部分的にデータが破損している? いや、違う。これは、意図的に塗りつぶされているだけ。……おそらく、俺をここに転移させた『誰か』が……」
その『誰か』の目的も気になるところだが、
それよりも、
「……どうやら、この『田中ザンク』ってのが、俺のベータ版として使われているっぽい……」
ログに残されていた『田中ザンク』の記録を精査していく。
「……この田中ザンクってやつ、エグいな……どんな頭脳してんだよ……自分の頭だけで、コスモゾーンに介入して、デバッグコマンドの一部を顕現させている……ポジション的には、『俺のベータ版』ってことになっているけど、スペックで言えば、こいつの方が、俺より遥かに有能だな……」
デバッグコマンドを使用した際の負荷テストとして、『田中ザンク』が用いられていた――という事実を発見した紙野は、
「事前準備までシッカリした上で、俺をこの世界に呼んだのは……ニコトピアを復活させるため、と考えていいのか?」
ログを見る限りにおいて、
その可能性は非常に高かった。
ただ、部分的に情報が塗りつぶされているので、
『間違った方向に思考誘導されている』という可能性は否定しきれなかった。
(……ニコトピアは、俺にとっては大事な世界だが……俺以外にとっても大事なものだとは思えない……)
碁打ちだったから、というのは無理やりな理由付けだが、
事実として、紙野は、全体を俯瞰で客観視することが出来る。
だから、違和感を覚えた。
『世界の意志』が『ニコトピアを復活させることを望んでいる』とは、あまり思えなかった。
(……何か、他の目的のために、俺の感情を利用している……そう考えた方が自然……)
トコを、『本当の意味』で確実に守るために、
紙野は、必死になって頭をまわす。
……と、そんなことをしている間に、
「ん……」
それまで気絶していたトコが目を覚ました。
「ん? ……んー? あれ?」