28話 すべての絶望を貪り喰らい尽くしてやるよ。
28話 すべての絶望を貪り喰らい尽くしてやるよ。
「頼む……お願いだ……死にたくないんだ……」
弱い部分を見せて同情をかっていく。
(ここまですれば、たいていの日本人は、情にほだされる……日本人は激アマな平和ボケバカ野郎だから)
表情には出さないように、
しかし、心の中では、しっかりと舌を出していく。
『不良は優しいヤツが多い』などという、
意味不明の『謎すぎる幻想』が、
この世には、たまにはびこるが、
――『本物の不良』とは、このキムロのように、
『絶対にブレずに、延々と、他者に迷惑をかけ続けるだけの悪魔』のことを言う。
キムロは、もう、『自分は許される』と決めつけた上で、
その先の妄想にふけっていた。
(……こいつの能力は規格外……こいつの下にいれば、いくらでも甘い汁が吸えそうだ……できれば、俺自身が親分になりたかったが……まあ、分不相応だったってことだろう。それに、正直、子分でいる方が気楽だしなぁ)
自分にとって都合のいいことばかりを考える。
自分がどんな過ちを犯したかは絶対に考えない。
それが、本物の不良。
(中坊の頃は、『子分の中でも下っ端』だった……それが問題だった……子分のトップ――『若頭』の地位にまで上り詰めれば、親分と、そこまで変わらない旨味にはありつける。なんだったら、責任感が親分より薄い分、気楽で、俺に向いている……)
悠長なことを考えているキムロに、
紙野は、虫を見る目で、
「何度も言わすなよ」
冷めた声で、そう言いながら、
キムロの両眼球に、両の親指をぶち込む。
「ぎゃぁああああああああっ!」
両目をつぶされて、悲鳴をあげるキムロに、
紙野は、冷徹な顔で、
「子供を殺された親の怒りをナメるな。たまたま蘇生できたが、だからって、お前が、ウチの子の首をナイフで刻んで苦しめた事実は消えないんだよ」
「痛いぃいい! 痛いぃいいいい!」
本来ならのたうちまわっているところだが、
体が毒で動かないので、悲鳴をあげることしかできない。
「トコを苦しめたやつを許す気はない。あの子を守るために俺は生きている。あの子を消滅させないために、この世界の絶望が必要だというのなら……すべての絶望を貪り喰らい尽くしてやるよ」
別格の覚悟を見せていく紙野。
何も手に入れることが出来なかった男の唯一の宝物。
ソレに対する執着心は桁違い。
最初から『人間味』というものが薄い男だったが、
父性が暴走してからというもの、
さらに紙野の人間性は薄らいで、
ついには、トコの死を目の当たりにしたことで、
完全にタガが外れてしまった。
もはや、紙野に、『人を殺す』ということを躊躇うような感性は残っていない。
「たす……けて……お願い……本当に助けて……死にたくない……お願い……本当に……手下として……奴隷として……頑張るから……だから――」
必死になって、本気の懇願をしているキムロに、
「俺も、お前にソレを言った。けど、お前は無視して、トコを殺した。100%自業自得。もう何を言っても無意味だから、自分の罪だけ数えてろ」
最後にそう言い捨てると、
紙野は、キムロの頭を、
「爆裂ランク10」
火力に全振りした爆裂の魔法で、
ボンッっと、簡単に吹き飛ばした。
はじめての殺人。
だが、感情はまったく揺らめかない。
「……我が子のためなら、親ってのは何でもできるんだな……『親』は怖いねぇ。下手したら、ヤクザより怖いかも」
などと、どうでもいいことを口にしつつ、
紙野は、己の右手首に目を向ける。
絶望ウォッチの数値が『0,1%』に増加していた。
「……一人を絶望させて殺せば0,1%……ってわけではないだろうな。それだと、1000人を殺すだけで世界が復活することになる……俺のニコトピアは、そこまで安くない」
これは、あくまでも感覚の話。
そして、プライドの話でもある。
どっちも大差ないが、とりあえず、この紙野の感覚は、あながち間違っておらず、
『キムロ程度の人間を1000人殺したぐらい』で、『消滅した世界が復活する』などありえない。
世界はそこまで軽くない。
「100%まで、まだ遠い……」
絶望を回収できる目途が立ったことで、正確にゴールの遠さを理解する紙野。
ゴールまでの距離が理解できると、
『今』、大事なことは、このパーセンテージにとらわれることではない、
という『効率厨的な作業脳』へとシフトする。
「より早く、より確実に、この数値を100%に近づけるには……やはり『力』がいる……この世界の全てを喰らい尽くせる力が……」
紙野はバカではない。
むしろ、論理的思考にはたけている。
なので、
「その手始めとして……まずは、『アイテムの権利』から回収しようか」
そう言いながら、
キムロが保有していたチートアイテムを順番に回収していく。
システム的には、『アリババ』と同じ。
デバッグコマンドを使って、アリババのシステムの上位互換となる効果を強制的に反映させる。
『なんでもあり』――に見えるが、紙野自身が言っていたとおり、現状では『ほぼ』なんでもありという状態に過ぎず、けっこう制限が多い。
例えば、
「……携帯ドラゴンだけ奪えない……なんでだ……」