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21話 再構築されていく。


 21話 再構築されていく。


「う……ぐぅ……」


 激痛に耐えながら、

 紙野は、


「お願いします……トコだけは……殺さないで……なんでもするから……」


「お前が死ぬまで必死に働くよりも、この女を殺す方が、1億倍価値がある」


 そう言い捨てると、

 キムロは、トコの頭を掴んで、

 その首に、アリババをつきたてた。


 我慢できずに悲鳴をあげるトコ。

 激烈な痛みの中で、大量に吹き上げる自分の血を眺めていた。


 キムロは、冷徹に、たんたんと、

 トコの首を刈り取っていく。


 まるで、家畜を解体する業者のような、業務的なテンポ。

 キムロの感性は、一般人の範疇から、そこまで大きくズレてはいないが、この世界に転生してから、何度も人を解体しているので、もう慣れたもの。

 最初の1・2回の時は、もちろん、抵抗感や忌避感があったが、3回目には、すでに薄れていた。

 5回目いこうは、普通に『楽しめる余裕』まで出てきた。


 ちなみに、現在の、トコを解体するムーブに残虐性などは皆無。

 普段なら、多少は、他人の命で遊んだりもするが、

 今は、嗜虐心を満たすことよりも、はやく、魔カードの権利を得たくて仕方がなかった。

 だから、丁寧に、慎重に、出来るだけ素早く、

 トコを絶命させていく。


 ほんの数秒で、トコの悲鳴は止まった。

 命が停止した。


 彼女の血で濡れたナイフを見つめながら、

 キムロは、


「やった……手に入れた……」


 自分に『権利』がうつったのを確認する。

 ランク333の魔カードという、

 あまりにも破格すぎるアイテムの権利を得た。


 自分自身のイカれた幸運に対し、感動と興奮が止まらない。


「パシリで終わると思っていた……裏世界を駆けずり回って、どこかでテキトーに死んで、それで終わりの人生だと思っていた……ゴミみたいだった人生が、今、この瞬間、変わった……」


 天を仰いで、『この爆裂な幸運』を与えてくれた神に感謝する。


 天への感謝を終えてから、

 キムロは、紙野に視線を向けて、


「……幸運をくれた分ぐらいは返してやるよ」


 トコの死体を掴み上げると、

 ソレを、紙野の前に放り投げる。


 これは、歓喜からくる善意。

 幸運をくれた相手に、ちょっとだけお返しがしたくなった。

 本当に、それだけの話。


「死体はやるよ。首を刈っただけだから、だいぶ綺麗な死体だろう? それだけの上玉の『綺麗な死体』なら、死体愛好家の貴族に、かなりの高値で売れるんだが、同郷のよしみと、幸運をくれた礼に、その死体はお前にやる。よかったな」


 ニカっと笑って、そう言うキムロ。

 これは本物の善意。

 悪意で煽っているわけではない。


 ――だが、紙野からすれば、当然、『とんでもない悪意』としか受け止められない。

 いや、というか、悪意だろうと、善意だろうと、そんなことはどうでもいい。

 とにかく、紙野からすれば、震えるほどの絶望。


 紙野は、トコの死体にソっと触れて、


「……トコ……」


 呼びかけてみた。

 ゆすってみたりもした。

 けど、反応はない。


 彼女は完全に死んでいた。


「……何も……してあげられなかった……たくさんもらったのに……俺は……何も……」


 彼女の死体を抱きしめて、

 ポロポロと涙を流す紙野。


 心が壊れていくのを感じた。

 この世界に転移してから、

 無数の感情の渦の中で翻弄された。


 その全てが、今、砕けて、弾けて、バラバラになって……

 そして、






 ――再構築されていく。






「……トコ……」


 感情が、整っていく。

 自分の中の想い。

 本音。

 憤怒。

 苦悩。


 今日だけの話ではなく、これまでの全部が、紙野の中で統合されていく。

 全部が、紙野の器になっていく。




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