12話 やる気しかない無能。
12話 やる気しかない無能。
「……『専用のツール(パソコンとソフト)』がなければ無理。で、それは、ここにない。創造能力は皆無だと思ってほしい。で、ここはニコトピアじゃないから、世界に関する知識もなし。で、運動能力とかも特にないし、お前と違って賢いわけでもない。囲碁だけは、そこそこ打てるけど、それだって、『本当に才能がある人』には勝てないレベル――以上が俺のスペックの全てだ。つまり、今の俺は、本当に何もできない。けど、やる気だけは十分だから、何でも言ってくれ」
「……やる気のある無能なんて邪魔なだけ……本当に勘弁してほしい。なんで、これほどの危機的状況下で、こんなお荷物を背負わないといけないんだ……クソカス、クソボケ、アホんだらぁあ」
心底鬱陶しそうに、辛辣なことをつぶやくトコ。
口の悪さは、彼女を構成する上で、最も大きな特徴。
そんな彼女を尻目に、
紙野は、
(……ステータスや見た目だけではなく、どうやら、中身も、完璧に具現化されているっぽいな……)
心の中で、そんなことをつぶやいた。
(……こんな状況になって、大変だとは思うけれど……トコを再現してくれたことに関してだけは、心から感謝したい……)
それは、父親が、娘に対して『産まれてきてくれてありがとう』と思う感情とほぼ同列。
――紙野の『元の世界』での状況を考えれば、金銭面や家庭環境の問題が大きいため、『結婚して子供を産む』という選択肢をとることは難しかった。
後先考えなければ、無計画に子供を産むということも出来なくはないが、紙野は、無責任ヤンキーではないので、多少は、『後先』というものを考えて行動をする傾向にある。
だから、将来性がないのに結婚したり、養える自信がないのに子供ができる行為を行ったり、など、そういう本能だけの行動はとらなかったし、とれなかった。
だから、最終的に、父親が死んだあとは、完全に独りとなり、独居老人として、最後を迎えるだろう――と、そんなことをいつも考えていた。
嫁さんや子供が欲しいとは思っていなかったので、別にそれでもいいと思っていたが、いざ、娘が出来ると、その『愛らしさ』に心がやられた。
それ以上ないという『幸福感』に包まれて、生きている意味すら理解できた気がした。
(いい子じゃなくても別に良かった……産まれてくれて、元気な姿を見せてくれて……それだけでよかった……けど、トコ……お前は、俺が望んだとおりの『良い子』で産まれてきてくれた……)
その感想は、親のひいき目ではない。
いや、もちろん、贔屓も多少はあるが、
しかし、それだけではない。
彼女は、先ほど、こう言った。
『なんで、こんな危機的状況下で、こんなお荷物を背負わないといけないんだ』と。
このヤバすぎる状況下で、
彼女は、悪態をつきつつも、
『紙野という荷物を背負って生きていく』という覚悟を示した。
――これこそが、彼女の本質。
紙野が、彼女に与えた、トコ・ドラッグという生命体の中にある根源。
(口では悪態をつきながらも……実は、この世の誰よりも本質的な意味で優しい……)
優しそうな言葉を口にするだけのハリボテではない。
彼女は、その狂気的な『優しさ』を、悪態でカモフラージュするタイプの厄介な子。
(この子を守るためならば、世界を絶望させることもいとわない)
時間を重ねるにつれて、カミノの『剣呑な覚悟』が、より危うさを増していく。