11話 デバッグコマンドも使えない、存在値一桁の製作者。
11話 デバッグコマンドも使えない、存在値一桁の製作者。
「あんた、神なんだったら、このぐらいの厄介事、秒でどうにかしてよ」
「だから、さっきも言ったように、俺は特に何もできなんだよ。『デバッグコマンド』とか使えないかなぁと思ったけど、ここはニコトピアじゃないから、どうやら使えないっぽいし。せめて低位の魔法ぐらい使えないかなぁ、と思って、実は、さっきから色々とためしているんだけど、なんにもできない……たぶん、俺、そうとう弱いと思う。自己鑑定すら出来ないレベルだから相当……」
そこで、トコは、
鑑定系の魔法で、紙野を査定する。
その結果、
「……存在値5? ……ご、ゴミめ……」
ネタとして口にしたのではなく、事実として、ゴミだと思ったから、ゴミだと口にした。
それだけの話。
ちなみに、トコの存在値は320。
全体的にレベルが低いニコトピアにおいては最強格だが、
この世界においては、『弱くはない』という程度。
決して、自由にふるまえるだけの強さではない。
悪意のある強者にロックオンされてしまうと、かなり危うい。
安全圏における美貌は、バキバキのメリットだが、
肉欲にまみれた野獣だらけの危険領域における美貌は、大きなリスク。
「ニコトピアの知識しかないってことは……ここは、ニコトピアじゃないから……あんたは、『すでに消滅した世界』の知識を持っているだけのお荷物ってこと?」
「……まあ、そうなるね。ははは。いやぁ、まいった、まいった」
「2度と神を名乗らないでくれる?」
「別に、神を名乗ったことはないけどねぇ……かみのそうぞうは、ただの本名だから……それに……」
と、そこで、紙野は、トコの手の中にある説明書を横目に、
「――本当の意味での『神』は、その説明書の製作者だと思う。もっと言えば、トコを具現化させた存在。……俺は、ただ、世界を設計しただけ……アイテムとかキャラとかの設定をプログラミングしただけで、それ以上の何かはしていない……その『設計図を具現化できる超越者』……それこそが神。俺は、神のツールの一つに過ぎない……たぶんね」
紙野の話を、真剣に聞いて、咀嚼して、飲み込もうとしているトコ。
紙野の発言は、トコからすれば、かなり突飛なもので、一般人であれば理解するのにかなり時間を要するものなのだが、しかし、『破格に賢いトコ』は、紙野の『言いたいこと』を正確に理解する。
「……あんたはあくまでも、私の設計者に過ぎず……定義上の『神』は、他にいる……と考えた方がよさそうね……さて、それらもろもろを踏まえた上で、これから、どうするべきか……」
ぶつぶつと、自分の置かれている状況の詳細化と、これから先の行動プランを練っていくトコ。
そんな彼女に対し、紙野は、ニコニコ顔で、
「いやぁ、助かるよ、トコ。俺はかなり無能なパパで、たぶん、何も出来ないけど、お前を守るためだったら、何でもするつもりでいるから、俺に出来そうなことは何でも言ってくれ」
「あんた、本当に何もできないの? 存在値が低くて、魔法が使えないのは分かったけど、私を設計したっていうのが本当なら、そういう、創造系の能力は持っているんじゃないの? ランク333の魔カードを創ったのが事実なら、それを、複製してほしいんだけど」
「……『専用のツール(パソコンとソフト)』がなければ無理。で、それは、ここにない。創造能力は皆無だと思ってほしい。で、ここはニコトピアじゃないから、世界に関する知識もなし。で、運動能力とかも特にないし、お前と違って賢いわけでもない。囲碁だけは、そこそこ打てるけど、それだって、『本当に才能がある人』には勝てないレベル――以上が俺のスペックの全てだ。つまり、今の俺は、本当に何もできない。……けど、やる気だけは十分だから、何でも言ってくれ」




