10話 神かどうかは分からないけれど。
10話 神かどうかは分からないけれど。
「神ではなく、パパと呼びなさい」
『無意識』をいじくられている今の紙野は、『赤ちゃんが産まれたばかりの新米お父さん』とほぼ同じぐらい、舞い上がっている。
トコの写真を撮って、知り合いに見せびらかしたいと思うぐらい、とことん茹で上がっているのだ。
「……キモすぎるんだけど」
と、『反抗期の娘以上の嫌悪感』を向けられる紙野。
それだけの精神攻撃を受けても、しかし、彼女に対する愛情は、まったく目減りしない。
『父の愛』の異常性がうかがえる。
トコは、数秒ほど、間をとってから、
「……『アトラン・チスの迷宮』にいる、厄介な雑魚モンスターの名前は?」
と、一般人では絶対に応えられない質問を投げかけていく。
「アトラン・チスにいる雑魚の中で面倒なのは……デスゴーレムぐらいかなぁ」
「……」
「ほかにも、いくらでもどうぞ。ニコトピアを創ったのは俺だから、知らないことはほとんどない」
「……じゃあ……」
と、そこからも、トコは、いくつかの質問を投げかけていった。
トコは、世界最高峰の薬物系の魔法使い。
世界中を旅して、たくさんの知識をため込んでいる最高位の賢者。
――そんな彼女でも知らないような知識を、
紙野創蔵は、山のように保有していた。
ありえない知識量。
もはや、勉強熱心だからとか、そういう次元ではない。
――トコはバカじゃない。
だから、理解できた。
目の前にいる人間が、
ただの『神を騙っている愚者』ではないとうこと。
本当に神かどうかは、まだ分からないが、
少なくとも、超越的な知識を有しているということだけは理解できた。
「……あんたが、一般人じゃないことは理解できた。……神――に匹敵する知識を有しているということも……」
そこで、トコは、さらに、数秒の間をとってから、
「で、あたしに何の用? こんな、空間魔法に閉じ込めて……何がしたい?」
「いや、実は、俺も、お前と同じで、ここに閉じ込められているんだ。気づいたら、ここにいて、何が起こっているのか分からなくて混乱している」
「はぁ?」
「俺は、ニコトピアに関しては、全知に近い知識を有しているけれど、それ以外は特に何も持っていないただの雑魚だ。こんなのが父親で申し訳ないと思うけれど、それが事実なんだから仕方がない」
「……」
「というわけで、トコ。お前の賢い頭脳を貸してほしい」
「頭脳を貸すって……何をしろっての?」
「俺は何も理解していないけど、幸いなことに、説明書は落ちていたから、ここからなにをすればいいのかだけは分かる。それを手伝ってほしい。そうじゃないと……お前も消えてしまう」
「なに、そのふざけた話」
そこで、紙野は、先ほど拾った説明書をトコに渡した。
さっそく中身を読み込んでいくトコ。
激烈に賢いトコは、ほんの数秒で、内容を理解すると、
「……鬱陶しい……」
頭を抱えて、タメ息をつき、
紙野をチラ見し、
「あんた、神なんだったら、このぐらいの厄介事、秒でどうにかしてよ」
「だから、さっきも言ったように、俺は特に何もできなんだよ。魔法とか使えないかなぁ、と思って、実は、さっきから色々とためしているんだけど、なんにもできない……たぶん、俺、そうとう弱いと思う。自己鑑定すら出来ないレベルだから相当……」